交通事故で使える保険の種類とは?治療費から慰謝料まで損しない請求方法

交通事故では、加害者が加入する自賠責保険と任意保険の対人賠償保険に請求するのが一般的な流れです。相手が保険に未加入の場合や自分にも過失がある場合は、人身傷害保険や無保険車傷害保険、労災保険など、自分側の保険や公的な制度も選択肢になります。どの保険を使うかで、受け取れる項目や手続きが変わります。この記事では、各保険の補償範囲、治療費や休業損害、慰謝料の内訳、慰謝料の3つの算定基準、事故直後から示談までの手順、治療の打ち切りを打診されたときの対処、ケース別の使い分けを解説します。

1. 交通事故で使える保険の全体像

交通事故に遭ったとき、使える保険は一つだけではありません。加害者が加入している保険、ご自身や家族が契約している保険、勤務先や居住地を通じて加入している公的な保険など、複数の選択肢が同時に存在します。このため、事故直後にどの窓口へ何を伝えるかで、その後の治療の進め方や受け取れる金額の組み立てが変わってきます。ここでは各保険の位置づけと選び方の考え方を整理します。

1.1 交通事故の保険は大きく分けて3種類

交通事故に関わる保険は、自賠責保険、任意保険、公的保険やその他の民間保険の3つに分けて考えると全体を把握しやすくなります。それぞれ加入の仕組みと役割が異なります。

分類主な保険加入の位置づけ主な役割
自賠責保険自動車損害賠償責任保険原則としてすべての車やバイクに加入が義務づけられている事故の被害者の人身損害に対する最低限の補償
任意保険対人賠償保険、対物賠償保険、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険、車両保険、弁護士費用特約加入は任意で、契約内容は人によって異なる自賠責保険で足りない部分、物損、自分側の損害を補う
公的保険・その他の保険健康保険、労災保険、生命保険、医療保険、傷害保険職業や加入状況、契約内容によって使えるものが決まる治療費の負担軽減や、入院・通院・後遺症に対する給付

自賠責保険は人の身体に生じた損害だけが対象で、車や持ち物の損害は含まれません。物損や、自賠責保険の範囲を超える損害は、任意保険が担う部分になります。公的保険や生命保険などは本来、交通事故だけを想定した保険ではありません。それでも、事故によるけがで通院や入院が必要になった場合に、給付の対象となることがあります。

1.2 加害者側の保険と自分側の保険の違い

保険は、誰の保険契約から支払われるかによっても性質が異なります。加害者側の保険は、被害者が加害者に請求できる損害賠償を保険会社が肩代わりする仕組みです。一方、自分側の保険は、ご自身の契約に基づいて保険金を受け取る仕組みです。

比較の観点加害者側の保険自分側の保険
主な保険加害者の自賠責保険、対人賠償保険、対物賠償保険人身傷害保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険、車両保険、弁護士費用特約など
請求の根拠加害者に対する損害賠償請求権ご自身の保険契約の約款
過失割合の影響被害者側にも過失があれば、その割合に応じて賠償額が減額される契約内容によるが、人身傷害保険などは過失の有無にかかわらず、約款の基準で実際の損害が支払われるものが多い
連絡や交渉の相手加害者が加入する保険会社の担当者ご自身が加入する保険会社の担当者
加害者の対応への依存加害者が保険に未加入の場合は支払いが滞る可能性がある相手の加入状況に左右されにくい

注意したいのは、示談交渉の窓口です。ご自身に過失がない事故では、ご自身の保険会社が相手方との示談交渉を代行できないのが一般的です。このため、被害者ご本人が相手方の保険会社と直接やりとりをする場面が出てきます。過失がまったくない場合ほど、保険会社の提示内容を確認する機会が多くなる点は知っておくと安心です。

1.3 どの保険を使うかで受け取れる金額は変わる

同じ事故、同じけがであっても、どの保険を、どの順序で、どの基準で請求するかによって、最終的に受け取る金額に差が出ることがあります。差が生じる主な要因は次のとおりです。

要因内容金額への影響
支払基準の違い自賠責保険は法令で定められた基準、任意保険会社は各社の内部基準、裁判では過去の裁判例をもとにした基準が用いられる同じ内容の損害でも、どの基準を用いるかで算定額が異なる
補償の上限自賠責保険には支払限度額がある。任意保険は契約内容によって上限が異なる損害が大きいほど、限度額を超えた部分をどの保険で補うかが問題になる
過失割合の扱い加害者側への請求では過失相殺が行われる。人身傷害保険は約款により扱いが異なるご自身に過失がある場合、減額された部分を自分側の保険で補えるかどうかで差が出る
特約の有無弁護士費用特約や無保険車傷害保険など、契約に付帯しているかどうかで使える手段が変わる相手が無保険の場合や、交渉が難航した場合の選択肢が増える

たとえばご自身に2割の過失がある事故では、加害者側へ請求すると、損害額から2割分が差し引かれるのが基本です。このとき人身傷害保険を契約していれば、約款の定めによっては、差し引かれた部分も含めて補償を受けられる場合があります。ただし、補償の範囲や算定方法は保険会社と契約ごとに異なります。

複数の保険を使えるとしても、実際に生じた損害を超えて二重に受け取ることは原則としてできず、保険金の間で調整が行われます。ただし、生命保険や傷害保険の定額給付のように、損害の額と関係なく支払われる性質のものは、調整の対象にならないことがあります。給付の性質は契約ごとに違うため、保険証券や約款で確認することが大切です。

事故に遭った直後は、まずご自身が加入している保険の内容を確認してみてください。自動車保険の証券に加えて、家族の契約に含まれていないか、勤務先の団体保険がないかも見ておくと、使える手段の見落としを減らせます。各保険の具体的な補償内容と手続きは、以降の章で順に整理します。

2. 強制加入の自賠責保険でカバーされる範囲

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法に基づいて、原動機付自転車を含むすべての自動車とバイクに加入が義務づけられている保険です。交通事故の被害者を救済し、最低限の補償を確保するための仕組みで、補償の対象は人身事故で亡くなった方やけがをした方に限られます。加入せずに運転すると罰則や行政処分の対象になります。また、保険期間が切れた状態の車で事故を起こすと、被害者への補償に影響が出るおそれがあります。

自賠責保険は、運転者や運行を支配している人ではない、車外の歩行者、相手の車の運転者や同乗者、自転車の利用者などが被害者になった場合に使われます。支払いの基準は法令に基づいて全国で同じ内容が定められており、保険会社ごとに補償の幅が変わることはありません。

2.1 自賠責保険の補償内容と支払限度額

自賠責保険の補償は、傷害、後遺障害、死亡の3つに分かれています。支払限度額は被害者1人あたりの上限として設定されており、事故1件あたりの総額ではありません。同じ事故で被害者が複数いる場合は、それぞれに限度額が適用されます。

損害の区分支払限度額(被害者1人あたり)
傷害120万円
後遺障害等級に応じて75万円から4,000万円
死亡3,000万円

限度額を超えた分は、加害者本人や加害者が加入している任意保険に請求することになります。任意保険の内容は次の章で取り上げます。

2.1.1 傷害による損害の限度額

けがをした場合の限度額は1人につき120万円です。この枠の中に、治療にかかる費用だけでなく、仕事を休んだ分の補償や慰謝料も含まれます。

費目主な内容
治療関係費診察、投薬、手術、入院、看護、通院のための交通費、施術にかかる費用など
文書料交通事故証明書、診断書、診療報酬明細書などの発行にかかる実費
休業損害事故によるけがで仕事を休み、収入が減った分の補償
慰謝料けがによる精神的な苦痛に対する補償

治療関係費は、必要かつ妥当な実費が対象とされています。整骨院などでの施術費用も、けがの状態に照らして必要性と妥当性が認められる範囲であれば含まれます。通院先を選ぶときや通院の頻度を決めるときは、事前に保険会社へ伝えておくと、支払いの範囲をめぐる行き違いを減らせます。

休業損害と慰謝料は、日額に対象日数を掛けて計算します。対象日数は、治療期間の全日数と、実際に治療を受けた日数の2倍を比べて、少ないほうが基本です。そのため、通院の間隔が空くと、実際の治療期間より対象日数が短くなることがあります。慰謝料の具体的な計算方法は、賠償金の内訳を扱う章で説明します。

治療が長引いて費用が120万円を超えた場合、超えた部分は自賠責保険からは支払われません。相手が任意保険に加入していれば、その保険会社と交渉することになります。

2.1.2 後遺障害と死亡の限度額

治療を続けても症状が残り、後遺障害の等級が認定された場合は、等級に応じた限度額が適用されます。後遺障害の限度額は、傷害の120万円とは別に設けられています。神経系統や胸腹部臓器に重い障害が残り、介護が必要な場合は、通常の等級より高い限度額が定められています。

区分等級支払限度額
常時介護が必要な場合第1級4,000万円
随時介護が必要な場合第2級3,000万円
上記以外の後遺障害第1級3,000万円
第2級2,590万円
第3級2,219万円
第4級1,889万円
第5級1,574万円
第6級1,296万円
第7級1,051万円
第8級819万円
第9級616万円
第10級461万円
第11級331万円
第12級224万円
第13級139万円
第14級75万円

後遺障害の等級は、提出された書類をもとに第三者機関が審査して決まります。申請の流れは、保険請求の手順を扱う章で説明します。

死亡の場合の限度額は3,000万円で、葬儀費用、逸失利益、被害者本人と遺族の慰謝料が含まれます。亡くなるまでに治療を受けていた場合は、その傷害分として120万円を上限とする補償が別に用意されています。

被害者にも事故の責任がある場合、自賠責保険では被害者の過失が大きいときに限って、支払額が減額されます。この減額の割合は、後遺障害や死亡と、傷害とで異なります。

被害者の過失割合後遺障害または死亡傷害
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

過失が少しあるだけでは減額されにくい点は、自賠責保険の特徴です。ただし、任意保険会社との示談では過失割合に応じた減額が行われるため、扱いが異なります。

2.2 自賠責保険では物損が補償されない点に注意

自賠責保険は人身事故だけを対象としているため、車の修理費、衣類や持ち物の損害、ガードレールや店舗などの壊れた物の修理費は、自賠責保険では支払われません。人身事故と物損事故が同時に起きた場合でも、物の損害は別の保険で対応します。

また、運転者自身のけがや、電柱への衝突などの単独事故によるけがも対象外です。自賠責保険は、他人にけがをさせたことで生じる賠償責任を補う保険だからです。

損害の種類自賠責保険主に使う保険
被害者のけが対象限度額を超えた分は相手の対人賠償保険
被害者の車の修理費対象外相手の対物賠償保険、自分の車両保険
衣類や持ち物の損害対象外相手の対物賠償保険
加害者自身のけが対象外自分の人身傷害保険や搭乗者傷害保険

相手が任意保険に入っていない場合、物損の賠償は相手本人に直接請求することになり、回収が難しくなることがあります。この場合の対処は、ケース別の章で扱います。

2.3 被害者請求と加害者請求の違い

自賠責保険の保険金の請求方法には、加害者請求と被害者請求の2種類があります。加害者請求は、加害者が先に被害者へ賠償金を支払い、その後に加害者が保険会社へ請求する方法です。被害者請求は、被害者が自賠責保険会社へ直接請求する方法で、加害者の同意や示談の成立を待たずに手続きできます。

項目加害者請求被害者請求
請求する人加害者被害者
お金の流れ加害者が被害者に支払ったあと、保険会社から加害者へ保険会社から被害者へ直接
請求できる時期被害者への支払いを済ませたあと示談の成立前でも可能
向いている場面加害者が賠償金を立て替えられる場合相手と連絡がつかない、示談が進まない、後遺障害の申請を自分で進めたい場合

実際の事故では、相手が任意保険に加入していれば、任意保険会社が自賠責保険の分もまとめて被害者に支払う一括払いが一般的です。この場合、被害者が自賠責保険会社へ請求する場面は多くありません。一方、相手が任意保険に入っていない場合や、過失割合で意見が分かれて示談が長引いている場合は、被害者請求が選択肢になります。

被害者請求では、治療中でも請求できる内払金の制度や、当面の費用に充てる仮渡金の制度が用意されています。治療費や生活費の負担が重いときに、示談の成立前でも一部の支払いを受けられる可能性があります。

被害者請求で用意する主な書類は次のとおりです。

  • 支払請求書
  • 交通事故証明書
  • 事故発生状況報告書
  • 診断書と診療報酬明細書
  • 通院交通費の明細書
  • 休業損害の証明書類(休業損害証明書、源泉徴収票など)
  • 印鑑証明書

後遺障害の請求では、これに加えて後遺障害診断書などが必要です。書類に不備があると支払いが遅れるため、事前に自賠責保険会社へ確認しておくと進めやすくなります。保険金の請求には期限があり、時効の考え方はよくある質問の章で取り上げます。

3. 任意保険で補償される内容

任意保険は、自賠責保険では足りない部分を補うために加入する保険です。補償は特約も含めて項目ごとに分かれており、加害者側が加入していれば被害者への賠償の支払元になり、自分が加入していれば自分や同乗者のけが、自分の車の損害、弁護士への依頼費用を支えるという二つの役割があります。どの項目に加入しているかは、保険証券や契約内容のお知らせで確認できます。

補償の種類主な対象自分の過失の影響
対人賠償保険相手のけがや死亡に対する賠償契約者が加害者側の場合に使う
対物賠償保険相手の車や建物など物への賠償契約者が加害者側の場合に使う
人身傷害保険契約者や同乗者自身のけがの損害過失割合にかかわらず支払われる設計が一般的
搭乗者傷害保険契約車に乗っていた人のけが過失割合に左右されず定額が支払われる
無保険車傷害保険賠償能力のない相手との事故での死亡・後遺障害相手から受け取れない分を補う
車両保険自分の車の修理費や買い替え費用相手に過失がなくても使える
弁護士費用特約弁護士への相談や依頼にかかる費用自分に過失がある事故でも使える場合がある

3.1 対人賠償保険と対物賠償保険

対人賠償保険と対物賠償保険は、自分が加害者側になったときに、相手への賠償を支払うための保険です。被害者の立場から見ると、相手が加入している対人賠償保険と対物賠償保険が、治療費や慰謝料、車の修理費などの支払元になります。

対人賠償保険は、事故で他人を死傷させた場合の法律上の賠償責任を補償します。自賠責保険から支払われる分を超えた損害が対象で、自賠責保険の上乗せとして働きます。相手が自賠責保険の範囲を超える治療や後遺障害を負った場合でも、対人賠償保険に加入していれば、その超過分を請求できる可能性があります。ただし、運転者本人、配偶者、父母、子が被害者となった場合は、対人賠償保険の対象外とされるのが一般的です。

対物賠償保険の対象は、相手の車だけではありません。ガードレールや信号機、店舗の建物、積載していた商品なども含まれます。相手の車を修理している間に代車を借りた費用や、営業用車両であれば休業による損害も、賠償の対象になることがあります。一方で、修理費が車の時価額を大きく上回る場合は、時価額が賠償の目安になる点に注意が必要です。この場合に差額を補う対物超過修理費用特約を付けている契約もあります。

対人賠償保険と対物賠償保険の多くには、保険会社が加害者に代わって相手と示談交渉を進める示談代行サービスが付いています。被害者は、相手本人ではなく相手側の保険会社の担当者と話し合うことになります。ただし、自分に過失がまったくない事故では、自分の保険会社は示談代行ができません。この場合の対応は、後述の弁護士費用特約と合わせて考える必要があります。

3.2 人身傷害保険と搭乗者傷害保険の違い

どちらも契約した車に乗っていた人のけがを補償しますが、支払いの仕組みが異なります。人身傷害保険は実際にかかった損害額を基準に支払われる実損払いで、搭乗者傷害保険はけがの部位や症状、通院日数などに応じて、あらかじめ決められた額が支払われる定額払いです。

項目人身傷害保険搭乗者傷害保険
支払いの考え方治療費、休業損害、慰謝料など実際の損害を、保険会社の基準で算出して支払うけがの程度に応じた定額を支払う
自分の過失過失割合にかかわらず、自分の過失分も補償対象になる設計が一般的過失割合の影響を受けない
相手からの賠償金との関係同じ損害について二重には受け取れない相手からの賠償金とは別に受け取れる取り扱いが一般的
補償される範囲契約によっては、歩行中や他の車に乗っていたときの事故も対象原則として契約車に乗っていた人が対象

人身傷害保険の大きな特徴は、相手との示談が成立する前でも、自分の保険から損害の補償を先に受けられる点です。相手の過失が大きい事故で交渉が長引く場合や、自分にも過失があって相手からの賠償が減額される場合に、不足分を補う役割を果たします。支払われた保険金は、相手への請求と調整されます。どの基準で調整されるかは契約の約款によって異なるため、受け取る前に保険会社へ確認しておくと安心です。

搭乗者傷害保険は、人身傷害保険と別枠で支払われるため、加入していれば重ねて受け取れます。ただし支払額は実際の損害とは連動しないため、治療が長引いても支払額が増えるとは限りません。人身傷害保険と搭乗者傷害保険の両方に加入しているかどうかは、請求前に必ず確認しておきたい点です。

3.3 無保険車傷害保険が役立つケース

無保険車傷害保険は、事故の相手が十分な賠償をできない状況で、被害者が死亡した場合や重い後遺障害が残った場合に、自分の保険から損害を補償する保険です。補償の対象は死亡と後遺障害に限られ、後遺障害は重度の等級に該当した場合に限定されるのが一般的です。通院で完治するけがなど、軽度の損害は対象に含まれません。

対象となる主なケースは次のとおりです。

  • 相手が対人賠償保険に加入しておらず、自賠責保険の範囲を超える賠償を支払う資力もない場合
  • 相手の対人賠償保険に加入はあるものの、保険金額が損害額に対して不足している場合
  • 相手の保険が、契約違反や免責事由によって支払われない場合

相手が特定できないひき逃げ事故については、無保険車傷害保険の対象外とされている契約が多く、被害者救済の制度である政府保障事業の利用を検討することになります。この点は後の章で詳しく扱います。

無保険車傷害保険は、人身傷害保険や自動車保険の基本的な補償に組み込まれていることがあり、加入を意識していなくても契約に含まれている場合があります。また、人身傷害保険に加入していれば、同じ損害をそちらで補償できることもあります。相手が無保険だと分かった時点で、自分の契約内容を確認し、どの補償が使えるかを保険会社に問い合わせることが大切です。

3.4 車両保険で自分の車の修理費をカバーする方法

自賠責保険には物損への補償がないため、自分の車の損害は、相手が加入している対物賠償保険か、自分が加入している車両保険のどちらかで補うことになります。相手に過失があれば相手の対物賠償保険に請求するのが原則ですが、相手が無保険だったり、過失割合の協議が長引いたりする場合に、車両保険が支えになります。

車両保険には、補償範囲の広さによって主に二つのタイプがあります。名称や内容は保険会社によって異なりますが、一般的には次のように整理できます。

タイプ補償されやすい損害注意点
一般型衝突、接触、自損事故、当て逃げ、盗難、水害など幅広い損害補償が広い分、契約の内容を確認しておく必要がある
限定型相手の車が特定できる衝突や接触、盗難、火災、水害など自損事故や相手が分からない当て逃げは対象外となる場合がある

車両保険を使うときは、次の点を確認しておきます。

  • 免責金額が設定されていると、その分は自己負担になるため、修理費が免責金額を下回れば保険金は支払われません
  • 修理費が車の時価額を超える全損の場合、支払われる保険金は、契約した保険金額や時価額が上限になります
  • 車両保険を使うと、翌年度以降の等級に影響する場合があります。影響の程度は事故の種類によって異なるため、使う前に保険会社へ確認するのが確実です

相手に過失がある事故で車両保険を使った場合、保険会社は支払った保険金の範囲で、相手に損害の請求をする権利を取得します。自分で負担した免責金額の分は、相手の過失割合に応じて別途請求できる場合があります。自分にも過失がある事故では、相手の対物賠償保険からは自分の過失分が支払われないため、その部分を車両保険で補う形になります。

3.5 弁護士費用特約の使い方と利用条件

弁護士費用特約は、交通事故の被害に遭ったときに、弁護士への相談料や依頼時の着手金、報酬金、実費などを保険会社が負担する特約です。相談費用と、依頼にかかる費用のそれぞれに上限が定められています。上限額は契約ごとに異なるため、証券で確認しておきます。

この特約が必要になる場面は、自分に過失がない事故です。自分に過失がまったくない場合、自分の保険会社は示談代行ができず、相手側の保険会社との交渉を自分一人で進めなければならなくなります。弁護士費用特約を使えば、費用の負担を抑えながら、交渉を弁護士に任せることができます。過失がある事故でも、特約を使える場合があります。

利用できる人の範囲は、契約内容によって異なります。多くの契約で、次のような人が対象に含まれます。

  • 契約者本人と、その配偶者
  • 契約者または配偶者の同居の親族
  • 契約者または配偶者の別居の未婚の子
  • 契約車に乗っていた人

自分が特約に加入していなくても、家族が加入している保険の特約が使えるケースがあります。また、自動車事故だけでなく、歩行中や自転車に乗っているときの事故にも対象を広げている契約もあるため、家族の保険も含めて確認しておくと見落としを防げます。

使い方の流れは、次のとおりです。

  1. 保険証券や契約内容で、特約が付いているかと、対象になる人の範囲を確認します
  2. 保険会社に連絡し、特約を使いたい旨を伝えて、利用の可否を確認します
  3. 弁護士に相談し、依頼する場合は保険会社に弁護士名などを連絡します
  4. 費用は、上限の範囲内で保険会社から弁護士に直接支払われる扱いが一般的です

弁護士は、保険会社から紹介を受けることも、自分で探して選ぶこともできます。依頼前に保険会社へ連絡せずに契約すると、費用が補償されない場合があるため、依頼の前に必ず利用の手続きを済ませておきます。この特約を使っても、通常は翌年度以降の等級に影響しないとされていますが、扱いは契約によって異なります。

なお、事故の原因が故意や重大な過失による場合や、被害者が親族である場合などは、特約の対象外になることがあります。特約を使えるかどうか判断がつかない場合は、相談の段階から保険会社の窓口に確認すると、無駄のない進め方ができます。

4. 健康保険や労災保険は交通事故でも使える?

交通事故によるけがでも、条件を満たせば健康保険や労災保険を使って治療を受けられます。相手側の保険会社が治療費を支払う流れになっている場合でも、被害者が自分の加入している制度を選べる場面があります。選び方によって、窓口での負担や最終的に手元に残る金額が変わることがあります。どの制度を使うかは、事故が起きた状況と、ご自身の働き方や加入先によって決まります。

4.1 健康保険を使って治療を受けるメリットと注意点

交通事故のけがであっても、健康保険を使って治療を受けることはできます。かつての厚生省(現在の厚生労働省)が、交通事故のような第三者の行為によるけがも健康保険の給付対象になると通知で示しています。

相手側の保険会社が治療費を支払う対応をしている場合、「健康保険は使わなくてよい」と案内されるケースがあります。しかし、健康保険を使うかどうかは被害者自身が選べます。判断のために、メリットと注意点を整理します。

  • 治療費の総額が抑えられ、過失相殺で差し引かれる額も小さくなります。被害者にも過失がある場合、損害額から被害者の過失割合に応じた分が差し引かれます。たとえば被害者の過失が2割であれば、治療費の2割分は自己負担になります。健康保険を使って治療費の総額が低くなれば、その分だけ自己負担も小さくなります。
  • 自賠責保険の傷害分の限度額に余裕が生まれやすくなります。傷害分には支払いの上限があり、治療費、休業損害、慰謝料などの合計がその範囲内で支払われます。治療費が抑えられれば、休業損害や慰謝料に充てられる余地が残ります。相手が任意保険に入っていない場合は、この点が特に影響します。
  • 相手側からの治療費の支払いが終わった後も、自己負担を抑えて通院を続けやすくなります。相手が支払いに応じられない場合も同様です。

一方で、次の点には注意が必要です。

注意点内容
給付が制限される場合故意の犯罪行為や故意に起こした事故は給付の対象外です。泥酔や著しい不行跡による事故は、給付の全部または一部が制限される場合があります。飲酒運転が関わる事故などは、加入先の判断で制限を受ける可能性があります。
仕事中や通勤中の事故業務災害や通勤災害に当たる場合は、労災保険が使われます。同じけがについて、健康保険と労災保険を併用することはできません。
対象外になる項目健康保険の対象は療養そのものにかかる費用です。診断書などの文書作成料、入院時の差額ベッド代、通院交通費、休業損害、慰謝料は対象外です。
届出が必要第三者の行為によるけがの場合、加入先への届出が求められます。手続きが遅れると、加入先とのやり取りが滞る場合があります。
途中で切り替える場合すでに相手側の保険会社が治療費を支払っているときは、保険会社と通院先の両方に切り替えを伝えます。支払い済みの分の扱いも確認しておくと、後の混乱を避けられます。

なお、慰謝料は一般に通院期間や通院日数をもとに算定されます。健康保険を使ったことだけを理由に、慰謝料が減るわけではないとされています。慰謝料の算定基準そのものは、後の章で説明します。

4.2 第三者行為による傷病届の提出方法

健康保険を使って治療を受けるときは、加入している保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。第三者の行為で生じたけがの治療費は、本来は加害者が負担するものです。そのため保険者は、いったん給付した分を加害者側へ請求(求償)します。この請求の根拠となる情報を集めるために届出が必要になります。

届出先は、加入している制度によって異なります。

  • 会社員や公務員などの被用者保険:全国健康保険協会(協会けんぽ)、または勤務先の健康保険組合や共済組合
  • 自営業やフリーランスなどの国民健康保険:住んでいる市区町村の窓口
  • 後期高齢者医療制度:各都道府県の後期高齢者医療広域連合(窓口は市区町村)

手続きは、おおむね次の順で進めます。

  1. 警察に事故を届け出て、人身事故として扱われているかを確認します。人身事故の扱いになっていないと、保険者から人身事故証明書入手不能理由書の提出を求められることがあります。
  2. 加入先に電話などで連絡し、交通事故で健康保険を使いたいと伝えます。
  3. 通院先の窓口で保険証を提示し、交通事故によるけがであることを申し出ます。
  4. 加入先から届いた書類、または公式サイトの様式に記入し、事故後できるだけ早く提出します。
  5. 保険者が、加害者側への求償に向けて事故の状況や相手方の情報を確認します。

提出する書類は保険者ごとに多少異なります。一般的には次のようなものです。

書類内容入手先・作成先
第三者行為による傷病届事故の日時、場所、相手方の氏名や連絡先、加入している自動車保険、けがの状況などを記入します。加入先の保険者
事故発生状況報告書事故の状況を図や文章で記入します。加入先の保険者
交通事故証明書事故が発生した事実を証明する書類です。自動車安全運転センター
念書、同意書、誓約書など保険者が加害者側へ求償することへの同意などを確認する書類です。名称や内容は保険者によって異なります。加入先の保険者
診断書求められた場合にのみ必要となります。通院先

届出書には相手方の氏名、住所、連絡先、加入している保険会社の名称などを書く欄があります。事故の当日に相手方の情報を控えておくと、記入がスムーズです。

特に気をつけたいのが示談との関係です。保険者が加害者に請求できる権利について、被害者が示談で放棄した形になると、保険者は求償ができなくなります。その場合、給付が受けられなくなったり、すでに給付された分の返還を求められたりする可能性があります。示談書に署名する前に、加入している保険者へ相談しておくと安心です。

4.3 通勤中や仕事中の事故は労災保険を利用

仕事中や通勤中に交通事故にあった場合は、健康保険ではなく労災保険の対象になります。労災保険は、パートやアルバイトを含めて、働いている人が対象です。個人事業主や会社の役員などは、特別加入をしていない限り原則として対象外です。

通勤災害として認められるのは、住まいと勤務先の間を合理的な経路と方法で移動している間に起きた事故です。移動の途中で通勤と関係のない目的で寄り道をした場合は、その後の移動が通勤とみなされないことがあります。ただし、日用品の購入など、日常生活上必要な行為を最小限の範囲で行った場合は、例外として扱われます。

労災保険を使うと、次のような給付を受けられます。

  • 治療費にあたる療養(補償)給付:労災保険の指定を受けた通院先では、窓口での支払いが原則ありません。指定を受けていない通院先で治療を受けたときは、いったん立て替えて後から請求します。通勤災害では、一部負担金が生じる場合があります。
  • 休業中の収入を補う休業(補償)給付:休業4日目から支給されます。給付基礎日額の約6割に加え、休業特別支給金として約2割が上乗せされます。休業の最初の3日間は、業務災害であれば事業主が平均賃金の6割を補償します。通勤災害では事業主の補償義務がありません。
  • 後遺障害が残ったときの障害(補償)給付:等級に応じて支給されます。等級認定は後の章で説明します。

労災保険は、被害者の過失割合が大きくても、過失相殺による減額は行われません。被害者側にも過失がある事故では、この点が健康保険との大きな違いになります。

項目健康保険労災保険
使える場面仕事中や通勤中以外の事故仕事中(業務災害)や通勤中(通勤災害)の事故
治療を受けるときの手続き保険証を提示します。請求書を提出します。業務災害は様式第5号、通勤災害は様式第16号の3です。
窓口での負担年齢や所得に応じた自己負担割合があります。原則なしです。通勤災害は一部負担金が生じる場合があります。
休業中の給付被用者保険では傷病手当金があります。国民健康保険では原則として支給されません。休業(補償)給付と休業特別支給金があります。
被害者の過失の影響過失相殺の考え方が働き、自己負担が生じる場合があります。過失相殺による減額はありません。

手続きは、まず勤務先に事故を報告します。そのうえで、労働基準監督署に請求書を提出します。休業中の給付は、休業(補償)給付の請求書で別に請求します。業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6です。請求書には事業主の証明欄がありますが、事業主が証明に応じない場合は労働基準監督署に相談できます。

労災保険を使う場合も、第三者(加害者)がいる事故では「第三者行為災害届」を提出します。仕事中や通勤中の事故で、誤って健康保険を使って受診してしまったときは、加入先に連絡して労災保険へ切り替える手続きが必要です。

労災保険と自賠責保険は、どちらを先に請求してもかまいません。ただし、同じ損害について二重に受け取ることはできません。先に支払われた分は、後から支払われる分で調整されます。

4.4 生命保険や医療保険から受け取れる給付金

交通事故にあったとき、加害者側の保険や公的な保険とは別に、ご自身が契約している保険から給付金を受け取れる場合があります。生命保険や医療保険の多くは、けがや病気の原因が交通事故であっても給付の対象になります。

保険の種類主な給付内容加害者側からの賠償との関係
生命保険死亡保険金、高度障害保険金など一般に、賠償金から差し引かれないとされています。
医療保険入院給付金、手術給付金、通院給付金など定額で支払われるタイプは、一般に差し引かれないとされています。
傷害保険、傷害特約事故によるけがの入院や通院、後遺障害、死亡に対する給付定額で支払われるタイプは、一般に差し引かれないとされています。
就業不能保険、所得補償保険働けない期間の収入を補う給付契約の型によって、賠償との調整が行われる場合があります。
共済入院、通院、後遺障害などへの給付共済ごとの規約によって異なります。

定額で支払われる給付金が賠償金から差し引かれにくいのは、保険契約者が払ってきた保険料の対価として支払われるものだからだ、と考えられているためです。そのため、加害者側から受け取る賠償金とは別に、これらの給付金を受け取れる可能性があります。一方、実際に生じた損害額を補う実損型の保険では、他の賠償との調整が行われます。どちらのタイプかは、保険証券や約款で確認できます。

給付金を請求するときは、次の点を確認します。

  • 契約者本人の保険に加えて、勤務先の団体保険、共済、クレジットカードに付帯する傷害保険、家族の契約で被保険者になっている保険がないか確認します。
  • 入院日数、手術の種類、通院日数など、給付の条件が契約ごとに定められています。
  • 事故の日から一定期間内に治療を開始していることが条件になっている契約もあります。
  • 請求には、診断書、交通事故証明書、入院や通院を証明する書類などが求められます。必要書類は保険会社に問い合わせて確認します。
  • 請求できる期間には限りがあります。事故後は早めに契約先へ連絡すると、請求漏れを防げます。

加入している保険の内容を把握していないと、受け取れるはずの給付金に気づかないまま請求期限を過ぎてしまうことがあります。事故にあったら、治療と並行して、自分や家族が契約している保険を一度すべて確認しておくことが大切です。

5. 交通事故の保険から受け取れる賠償金の内訳

交通事故の賠償金は、事故によって実際に支出した費用、仕事を休んだことで失った収入、精神的な苦痛に対する慰謝料の3つに大きく分かれます。どの項目が請求できるかを把握していないと、保険会社から示された金額に漏れがあっても気づきにくくなります。まずは全体の区分を整理します。

区分主な項目考え方
積極損害治療費、通院交通費、入院雑費、付添看護費、装具代、診断書の文書料事故のために実際に支出した費用
消極損害休業損害、後遺障害による逸失利益事故がなければ得られたはずの収入
慰謝料入通院慰謝料、後遺障害慰謝料ケガや後遺障害による精神的な苦痛への賠償

5.1 治療費や通院交通費の請求

治療費と通院交通費は、事故と因果関係があり、必要かつ相当な範囲の実費であれば請求できるのが原則です。治療費は、加害者側の保険会社が通院先に直接支払う「一括対応」が取られることが多く、その場合は被害者が窓口で立て替える負担は小さくなります。一括対応がない場合は、いったん自分で支払い、領収書をもとに後から請求します。

通院交通費は、電車やバスの運賃のほか、自家用車で通う場合のガソリン代や駐車場代も対象になり得ます。ガソリン代は走行距離に応じて計算する方法が一般的です。タクシーは、歩行が難しい、公共交通機関が使えないなど、利用の必要性が認められる場合に限られやすい点に注意が必要です。

費目認められやすい例確認しておきたい点
治療費症状に対応した施術や検査、投薬にかかった費用症状との関連が薄い内容や、過剰とみなされる頻度は争いになることがあります
通院交通費公共交通機関の運賃、自家用車の燃料代、駐車場代通院日と区間を記録し、領収書や利用明細を残します
付添看護費入院中や通院に付き添いが必要だった場合の費用年齢や症状から付添いの必要性が説明できることが前提です
入院雑費入院中の日用品や通信にかかる費用日数に応じた定額で扱われることが多く、個別の領収書は求められない場合があります
装具・器具代コルセットやサポーター、松葉杖など必要と判断された根拠が分かる書類を保管します
文書料診断書や明細書の発行にかかった費用保険会社への提出に必要な書類は請求対象になります

整骨院や整体院などに通う場合は、通院を始める前に保険会社へその旨を伝え、症状と施術内容の関係を説明できる状態にしておくことが大切です。事前の連絡がないまま通院を続けると、施術費の支払いを巡って意見が分かれることがあります。通院の頻度や施術内容は、あとから振り返れるように記録しておくと安心です。

5.2 休業損害の計算方法

休業損害は、ケガの治療のために仕事を休み、得られなかった収入を補う賠償金です。基本の計算式は1日あたりの基礎収入×休業日数で、休業日数は治療期間のうち実際に休んだ日が対象になります。有給休暇を使った日も、収入を失ったものとして休業日数に含めて請求できます。半日休んだ日や、遅刻・早退をした日も、事情に応じて一部が認められることがあります。

自賠責保険の基準では、1日あたりの金額が定額で定められており、収入を資料で示せる場合は一定の上限の範囲内でそれを上回る額が認められる仕組みです。一方、弁護士基準では実際の収入をもとに日額を算出するため、職業によって計算方法と必要書類が変わります。

職業・立場基礎収入の考え方主な必要書類
会社員・パート事故前3か月の総支給額を、その期間の日数または稼働日数で割って日額を出します休業損害証明書、源泉徴収票、給与明細
自営業・個人事業主前年の確定申告所得をもとに日額を算出します。休業中も支払いが続く固定費が考慮される場合があります確定申告書の控え、帳簿、売上が分かる資料
主婦・主夫家事労働にも経済的価値があるとされ、賃金統計の女性平均賃金をもとに算定する方法が一般的です家族構成が分かる書類、家事に支障が出た状況の記録
会社役員報酬のうち労務の対価にあたる部分のみが対象です役員報酬の内訳が分かる資料
学生・無職の方原則として対象外ですが、アルバイト収入がある場合や、就職内定後に就労が遅れた場合は認められることがありますアルバイトの給与明細、内定通知書

休業損害は、仕事を休む必要があると認められる範囲で支払われます。症状が軽いのに長く休んだ場合などは、休業の必要性を巡って保険会社と見解が分かれることがあります。通院の記録と勤務先の証明を合わせて残しておくと、休業の裏付けとして示しやすくなります。

5.3 入通院慰謝料の相場と3つの算定基準

入通院慰謝料は、ケガをして入院や通院をしなければならなかったことへの精神的苦痛に対する賠償です。同じケガ、同じ通院期間でも、どの算定基準で計算するかによって金額に差が出ます。基準は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つです。

算定基準内容特徴
自賠責基準自賠責保険の支払基準にもとづく計算です最低限の補償を目的としており、3つのなかでは低くなる傾向があります
任意保険基準各保険会社が社内で定めている計算です基準は公表されておらず、自賠責基準に近い水準から、やや上回る水準で提示されることが多いとされます
弁護士基準過去の裁判例をもとにした算定表による計算です。裁判所基準とも呼ばれます3つのなかでは高くなる傾向があります。示談交渉では、弁護士が代理人として交渉する場合に用いられやすい基準です

自賠責基準では、1日あたりの定額に対象日数をかけて計算します。対象日数は、事故日から治療が終わるまでの総日数と、実際に通院した日数を2倍した日数のうち、少ないほうが用いられます。なお、傷害に対する自賠責の支払いには、治療費や休業損害などを含めた限度額があり、慰謝料だけで使い切るものではない点も押さえておく必要があります。

弁護士基準では、入院期間と通院期間をもとに、算定表から金額を読み取ります。算定表は、骨折など他覚的に症状が確認できるケガに用いる表と、むちうちなど他覚的な所見が乏しい場合に用いる表に分かれています。通院期間が長く、通院の頻度が低い場合は、実際の通院日数を表の種類に応じて3倍から3.5倍程度に換算した期間を目安にする考え方があります。

慰謝料の額に影響する主な要素は次のとおりです。

  • 入院の有無と入院期間
  • 通院期間と通院頻度
  • ケガの内容と程度
  • 被害者側の過失割合による減額の有無

通院の間隔が大きく空くと、ケガの程度が軽いと受け取られ、通院期間が短く見積もられる要因になります。症状が続いている間は、通院先と相談しながら無理のない頻度で通い、通院の記録を途切れさせないことが、適切な評価につながります。

5.4 後遺障害慰謝料と逸失利益

治療を続けても症状が残り、後遺障害等級が認定された場合に限り、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できます。等級は1級から14級まであり、数字が小さいほど重い障害を表します。認定の申請方法は別の章で説明するため、ここでは認定後に請求できる賠償の中身を整理します。

後遺障害慰謝料は、残った症状による精神的苦痛への賠償で、等級ごとに基準額が定められています。入通院慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準で金額が異なり、弁護士基準が最も高くなる傾向があります。

逸失利益は、後遺障害によって将来の労働能力が下がり、減ってしまう収入に対する賠償です。計算式は次のとおりです。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

計算の要素内容
基礎収入原則として事故前の年収です。主婦や学生などは、賃金統計の平均賃金を用いるのが一般的です
労働能力喪失率等級ごとの目安があります。たとえば14級は5%、12級は14%、9級は35%とされています
労働能力喪失期間症状固定の時点から67歳までが基本です。高齢の場合は平均余命をもとにした期間が用いられます
ライプニッツ係数将来受け取るはずの収入を、いま一括で受け取る際に生じる利息分を差し引くための係数です。法定利率にもとづいて決まります

むちうちなどで14級や12級に認定された場合は、労働能力喪失期間が5年程度から10年程度に限られる例が多いとされています。そのため、同じ等級でも、年齢や職業、症状の内容によって逸失利益の額は大きく変わります。保険会社の提示が、喪失期間を短く見積もっていないか、基礎収入が実際の収入より低く設定されていないかを確認することが、見直しのポイントです。

症状固定後にかかる治療費は、原則として賠償の対象になりません。症状固定の時期は、その後の請求に影響するため、通院先の見解を踏まえて慎重に判断する必要があります。

6. 損しないための保険請求の手順

交通事故の保険請求では、事故直後の動きと、その後の書類の整え方、示談に応じるタイミングによって、受け取れる内容が変わる場合があります。ここでは、事故当日から後遺障害の等級認定までを時系列で整理します。

6.1 事故直後に行うべき対応

事故直後は気が動転しやすく、その場の判断が後の請求に影響することがあります。まず優先するのは安全の確保です。車を安全な場所に移し、負傷者がいれば救護し、必要に応じて救急車を呼びます。そのうえで、次の順に対応します。

順番対応理由と注意点
1警察へ連絡する軽い接触でも届け出ます。届け出がないと、保険金の請求に必要な交通事故証明書が発行されません。
2相手の情報を控える氏名、連絡先、車両のナンバー、加入先の保険会社名を確認します。免許証や車検証を見せてもらえる場合は、写真に残しておくと確実です。
3現場の状況を記録する車両の損傷、停止位置、信号や標識、路面の状態を撮影します。ドライブレコーダーの映像は上書きされる前に保存します。目撃者がいれば連絡先を聞いておきます。
4自分の保険会社へ連絡する任意保険に加入している場合は、事故の当日か翌日までに第一報を入れます。連絡が遅れると、補償の対象になるかどうかの確認に時間がかかる場合があります。
5早めに検査や施術を受ける痛みが軽くても受けておきます。事故から日数が空くと、症状と事故との関係を説明しにくくなる可能性があります。

その場で示談の話を進めたり、念書や簡単な書面にサインしたりすることは避けてください。事故直後は、けがの程度も車の修理費用も確定していません。後から請求できる範囲を狭めてしまうおそれがあります。

事故の翌日以降に首や腰の痛み、頭痛、しびれが出ることもあります。症状の出方には個人差があるため、気になる変化があれば日付とあわせて記録しておくと、後の説明に役立ちます。

6.2 保険会社への連絡と必要書類

連絡先は主に、自分が加入している保険会社と、相手方の保険会社の2つです。自分の保険会社には事故の報告と、使える補償の確認をします。相手方の保険会社は、加害者側の対応窓口として被害者に連絡してくるのが一般的です。

最初の連絡では、次の内容を伝えます。

  • 事故が起きた日時と場所
  • 事故の状況(進行方向、信号の状態、衝突した部位など)
  • 相手の氏名、連絡先、車両のナンバー
  • 警察への届け出の有無
  • けがの状況と、通院先の予定

整骨院などに通う場合は、通院を始める前か始めた時点で、その旨を保険会社に伝えておきます。事後に知らされると、通院の必要性について確認が長引くことがあるためです。

保険会社とのやり取りは、日時、担当者名、話した内容をメモに残しておきます。後から「言った、言わない」の食い違いが生じたときに、経緯を確認する材料になります。

請求に使う主な書類は次のとおりです。加害者側の保険会社を通して進める場合と、自分で請求する場合とで求められる書類が異なるため、実際には保険会社の案内に従って準備します。

書類内容入手先の目安
交通事故証明書事故が発生した事実を公的に示す書類です。自動車安全運転センターの窓口や郵便局の払込用紙で申込みます。
事故発生状況報告書事故の状況を図や文章で説明する書類です。保険会社から取り寄せ、自分で記入します。
診断書・診療報酬明細書けがの内容と、治療にかかった費用を示す書類です。通院先で作成を依頼します。
休業損害証明書事故で仕事を休んだ日数と、減った収入を示す書類です。勤務先に記入を依頼します。
収入を確認できる資料源泉徴収票や確定申告書の控えなど、休業損害の計算に使います。勤務先や自宅で保管しているものを使います。
通院交通費の記録通院の日付、経路、利用した交通手段をまとめたものです。自分で作成します。領収書があれば保管します。

公共交通機関を使わずタクシーで通院した場合は、歩行が難しいなどの理由を添えておくと、保険会社が必要性を判断しやすくなります。認められるかどうかは個別の事情によります。

6.3 治療の打ち切りを打診されたときの対処法

通院が数か月続くと、加害者側の保険会社から「そろそろ治療を終えてはどうか」「治療費の支払いを終了したい」と連絡が来ることがあります。これは保険会社が自社の判断で支払いの終了を提案しているものであり、症状が落ち着いたかどうかの最終的な判断とは別のものです。連絡があった時点で、すぐに同意する必要はありません。

対処は次の順に進めます。

  1. その場で返答せず、日を改めて回答すると伝えます。電話口で了承すると、後から覆しにくくなります。
  2. 現在の症状を整理します。痛みやしびれが残っている場所、日常生活や仕事で困っている動作、通院で変化した点を書き出します。
  3. 通院先に、今後の見通しを確認します。治療を続ける必要があるかどうか、あとどの程度の期間が目安になるかを聞き、可能であれば書面にしてもらいます。
  4. 保険会社に、治療の継続を希望する理由を伝えます。通院先の見解を添えて、延長を求めます。
  5. 延長が認められない場合の対応を検討します。自費で通院を続けた分は、後の示談交渉で請求する方法があります。ただし、認められるかどうかは症状の経過や通院の必要性によるため、領収書と通院記録を残しておきます。

打ち切りの打診を受けたときに気をつけたいのは、通院の間隔です。通院が数週間空くと、保険会社から「症状が軽くなった」と受け取られる材料になりかねません。仕事や家事で通えない日が続く場合は、理由を保険会社に伝えておきます。

治療を続けても大きな改善が見込めない状態を「症状固定」と呼び、症状固定になると治療費の請求は原則として終了します。この時点で痛みやしびれなどが残っていれば、後遺障害の等級認定を検討する段階に進みます。弁護士費用特約を付けている場合は、打ち切りの打診を受けた時点で弁護士に相談する方法もあります。

6.4 示談交渉で後悔しないためのポイント

示談とは、損害賠償の金額や支払い方法について、当事者同士が合意して解決する手続きです。示談書に署名して成立すると、原則として内容を後から変更できません。示談後に新たな症状が出ても、追加の請求が難しくなります。このため、次の点を確認してから応じます。

確認項目見るポイント
示談を始める時期けがが完治するか、症状固定の判断が出てから進めます。後遺障害が残る場合は、等級の認定結果が出てから話し合います。
治療費・通院交通費これまでにかかった費用が漏れなく含まれているか、領収書や記録と照らして確認します。
休業損害休んだ日数と、1日あたりの収入の算出方法が適切か確認します。家事に支障が出た場合の扱いも確認します。
慰謝料どの算定基準で計算された金額かを確認します。基準によって金額が異なる場合があります。
過失割合事故状況と照らして、割合が妥当か確認します。割合が1割変わると、受け取る金額にも影響します。
示談書の文言「今後一切の請求をしない」という趣旨の条項があるか確認し、将来の症状悪化への対応を含めて内容を理解してから署名します。

保険会社から示談案が示されたら、その場で返答せず、書面で内訳を出してもらいます。計算の根拠が分かれば、各項目を一つずつ確認できます。提示された金額は、保険会社が自社の基準で算出したものであり、最終的な金額ではありません。算定基準の違いは別の章で詳しく扱います。

提示内容に疑問がある場合は、納得できない項目を整理して保険会社に伝え、再計算を求めます。それでも折り合いがつかない場合は、弁護士や交通事故の相談窓口に確認する方法もあります。なお、損害賠償の請求には期限があり、示談が長引く場合は時効にも注意が必要です。この点は後の章で扱います。

6.5 後遺障害等級認定の申請方法

治療を続けても痛み、しびれ、可動域の制限などの症状が残り、症状固定と判断された場合は、後遺障害の等級認定を申請できます。等級が認定されると、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求する土台になります。金額の考え方は別の章で説明しているため、ここでは申請の流れを説明します。

申請の大まかな流れは次のとおりです。

  1. 症状固定の時期を、通院先と相談して確認します。
  2. 後遺障害診断書の作成を依頼します。自覚症状や検査結果が、現在の状態と合っているかを確認します。
  3. 画像検査の結果や、通院の記録をそろえます。
  4. 申請の方法を選び、保険会社または自賠責保険に書類を提出します。
  5. 損害保険料率算出機構の調査事務所で審査が行われ、結果が通知されます。

申請の方法には、事前認定と被害者請求の2種類があります。

項目事前認定被害者請求
手続きを行う人加害者側の任意保険会社です。被害者本人、または依頼を受けた代理人です。
被害者の負担必要書類を保険会社に渡すだけで済み、手間が少なくなります。書類を自分で集めて提出するため、手間がかかります。
提出内容の把握保険会社が提出する資料の中身を、被害者が確認しにくい場合があります。提出する資料を自分で選び、内容を確認できます。
追加資料被害者の意見書などを添えにくい場合があります。症状を裏づける資料を自分で添付できます。

等級の審査は、提出された書類をもとに行われるため、症状の経過と検査結果が一貫して記録されているかが重要になります。通院の間隔が大きく空いていたり、診断書の記載が実際の症状と合っていなかったりすると、事故との関係が認められにくくなる可能性があります。申請前に、診断書の記載内容を自分の症状と照らして確認しておきます。

認定結果に納得できない場合は、異議申立てができます。その際は、新しい検査結果や、症状の経過を補う資料を追加します。同じ資料のまま再度申立てをしても、結果が変わりにくいためです。異議申立てを行うか迷う場合は、書類の準備の段階で、交通事故の取り扱いに慣れた弁護士に相談することも一つの方法です。

7. ケース別にみる交通事故の保険の使い方

交通事故では、相手が任意保険に入っていない、相手が見つからない、自分にも過失がある、被害者が車に乗っていない、といった事情によって、請求先と手順が変わります。ここでは、事故の状況ごとに、どの保険や制度を検討するかを整理します。

7.1 相手が任意保険に未加入だった場合

相手が任意保険に入っていなくても、自動車の所有者には自賠責保険への加入が義務づけられています。そのため、人身事故であれば、まず相手の自賠責保険に被害者請求を行うことが基本の流れになります。ただし自賠責保険には支払限度額があり、物損は対象外です。限度額を超えた治療費や慰謝料、車の修理費などは、次のような方法で補うことを検討します。

損害の種類請求や利用を検討する先押さえておきたい点
人身の損害(自賠責の範囲内)相手の自賠責保険被害者本人が直接請求できます。相手の自賠責保険会社は、事故証明書や相手の自賠責保険証明書で確認します。
人身の損害(自賠責の範囲を超える分)相手本人への請求、自分の人身傷害保険相手に資力がないと回収が難しくなることがあります。人身傷害保険は、相手との示談を待たずに自分の保険から支払いを受けられる場合があります。
死亡や後遺障害が生じた場合自分の無保険車傷害保険相手が対人賠償保険に入っていない場合などが対象です。傷害のみの場合は対象外となるのが一般的なので、契約内容を確認してください。
車の修理費などの物損相手本人への請求、自分の車両保険相手が支払えない場合は車両保険の利用を検討します。保険を使うと翌年度以降の保険料に影響する場合があります。
相手との交渉や請求にかかる弁護士費用自分の弁護士費用特約相手に支払い能力がない場合でも、交渉の負担を軽くできる可能性があります。

相手が任意保険に入っていない場合、保険会社が間に入らないため、相手と直接やり取りして示談を進めることになり、約束した支払いが滞るおそれもあります。事故現場では、相手の氏名、住所、連絡先、車のナンバー、自賠責保険の会社名と証明書の内容を必ず控えてください。示談がまとまった場合は、支払い方法や期日を書面に残しておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

相手が任意保険に未加入であることは、事故後の連絡で初めて分かる場合も少なくありません。その際は、自分の保険会社にも早めに状況を伝え、人身傷害保険や無保険車傷害保険が使えるかどうかを確認しておくと安心です。

7.2 ひき逃げや無保険車との事故は政府保障事業を利用

加害車両が特定できないひき逃げや、自賠責保険にも入っていない無保険車との事故では、自賠責保険から支払いを受けられません。このような被害者を救済するため、国が行っているのが政府保障事業です。政府保障事業は、自賠責保険では救済できない人身事故の被害者に対し、自賠責保険に準じた基準で損害をてん補する制度です。請求の窓口は、自賠責保険を取り扱っている損害保険会社や共済の窓口とされています。

事故の状況主な請求先や制度注意点
ひき逃げで加害者が分からない政府保障事業、自分の人身傷害保険、無保険車傷害保険警察への届け出と交通事故証明書の取得が前提になります。
加害車両が自賠責保険に未加入政府保障事業、加害者本人への請求加害者に請求できる場合は、先に受け取った賠償額が差し引かれることがあります。
盗難車や無断運転による事故政府保障事業が対象となる場合があります自賠責保険が使えるかどうかで扱いが分かれるため、窓口で確認してください。

政府保障事業には、次のような特徴があります。

  • 対象は人身事故のみで、車の修理費などの物損は対象外です。
  • 健康保険や労災保険などから給付を受けた分は、重複して支払われないよう差し引かれます。
  • 支払われた金額は、国が後から加害者に請求する仕組みです。
  • 請求できる期間には限りがあるため、早めに窓口へ相談することが大切です。

ひき逃げの場合は、事故の直後に警察へ届け出ることが出発点になります。届け出がなければ交通事故証明書が発行されず、各種の請求手続きが進みにくくなります。加害者が分からなくても、自分の人身傷害保険や無保険車傷害保険が使えるケースがあるため、政府保障事業と並行して、契約している保険会社にも確認しておくとよいでしょう。車両保険については、契約の型や特約によって相手不明の事故が対象になるかどうかが異なるため、補償内容の確認が必要です。

7.3 自分にも過失がある場合の保険の考え方

事故の原因が双方にあるとき、損害の総額から自分の過失割合に応じた分が差し引かれます。これを過失相殺といいます。たとえば自分の過失が2割と判断されると、相手に請求できる賠償額は、損害の総額の8割が目安になります。過失割合は、事故の類型ごとの基準を参考にしつつ、道路状況や速度、ウインカーの有無などの修正要素を加えて決められるのが一般的です。

自賠責保険は、被害者保護の観点から、過失があっても原則として減額されません。減額されるのは被害者の過失が大きい場合に限られ、減額の割合は次のとおり決まっています。

被害者の過失割合後遺障害や死亡による損害の減額傷害による損害の減額
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

相手の任意保険の対人賠償保険から支払われる賠償金は過失相殺の対象となるため、自分の過失が大きいほど受け取れる額は少なくなります。この差を補う手段として、自分の人身傷害保険は、契約内容によっては自分の過失分も含めて損害を補償する仕組みになっているため、過失がある事故で心強い存在です。ただし、保険会社が支払った金額と相手への請求との関係は約款で定められているため、示談の前に契約内容を確認してください。

過失割合を巡っては、事故の状況に関する双方の説明が食い違うことがあります。ドライブレコーダーの記録、現場の見取り図、事故直後に控えたメモ、目撃者の連絡先などは、過失割合の話し合いで役立ちます。

また、自分の過失が全くない事故では、自分の保険会社は相手との示談交渉を代行できません。賠償金の支払い義務が自分側に生じないため、保険会社が当事者として交渉できないからです。このような場面では、弁護士費用特約を付けていれば、交渉を専門家に任せやすくなります。特約の利用条件の詳細は、別の章で触れています。

7.4 同乗者や歩行者が被害者になった場合

運転していない人が被害者になった場合も、事故の状況に応じて複数の保険から請求先を選べます。特に同乗者は、運転者が誰か、運転者に過失があるかによって、請求先が変わります。

被害者の立場請求を検討する先注意点
他人の車に同乗していた運転者の対人賠償保険、相手車両の対人賠償保険、自賠責保険、同乗していた車の人身傷害保険や搭乗者傷害保険過失のある運転者が複数いる場合は、それぞれに請求できます。
家族が運転する車に同乗していた人身傷害保険、搭乗者傷害保険、自賠責保険、相手車両の保険運転者の対人賠償保険は、被保険者の親、配偶者、子に対する賠償が対象外とされることがあります。
歩行中に車にはねられた加害車両の対人賠償保険、自賠責保険、自分や家族の人身傷害保険契約内容によっては、車に乗っていない状態の事故も人身傷害保険の対象になります。
自転車に乗っていて車と衝突した加害車両の対人賠償保険、自賠責保険、自分の人身傷害保険や自転車向けの保険自転車側にも過失があると判断される場合は、過失相殺が行われます。

同乗者は、運転者の運転に問題がなければ、原則として運転者側に過失は生じません。ただし、運転者の飲酒を知りながら同乗していたなど、同乗者自身に事故の発生に関わる事情がある場合は、賠償額が調整されることがあります。反対に、同乗者に過失がなければ、相手の過失が大きい場合は相手の保険から、自分が乗っていた車の運転者に過失があればその保険からも、請求できる可能性があります。

歩行者の場合、自分が自動車保険を契約していれば、人身傷害保険の補償範囲に歩行中の事故が含まれているかを確認してください。この補償は、契約者本人だけでなく、同居の家族が対象になることもあります。被害者が自分で契約した保険だけでなく、家族の契約が使えることもあるため、事故後は家族の保険証券も確認しておくとよいでしょう。

8. 交通事故の保険に関するよくある質問

8.1 保険を使うと等級は下がる?

自動車保険の等級が下がるかどうかは、どの保険の、どの補償を使ったかによって決まります。等級は、契約者本人の保険料の割引率に関わる仕組みです。事故が起きても、すべてのケースで下がるわけではありません。

事故の種類は、等級への影響によって大きく3つに分かれます。細かな扱いは保険会社や契約内容で異なる場合があるため、実際に使う前に契約中の保険会社へ確認しておくと安心です。

事故の区分主な対象となる補償や事例等級への影響
3等級ダウン事故対人賠償保険、対物賠償保険、車両保険を衝突などの事故で使った場合翌年度の等級が3つ下がり、事故有係数が適用される期間は原則3年です
1等級ダウン事故盗難、台風、飛来物、いたずらなどで車両保険を使った場合翌年度の等級が1つ下がり、事故有係数が適用される期間は原則1年です
等級据置事故(ノーカウント事故)弁護士費用特約、ロードサービス、搭乗者傷害保険などを使った場合。人身傷害保険は、契約内容や事故状況によってこの扱いになることがあります等級は下がりませんが、翌年度は等級が上がらず据え置かれます

被害者の立場で相手方の対人賠償保険から賠償を受ける場合、被害者自身の自動車保険の等級には影響しません。自賠責保険の請求も、等級とは関係がありません。健康保険や労災保険を使った場合も、自動車保険の等級が変わることはありません。

注意したいのは、等級が下がると翌年度以降の保険料が上がる点です。修理費や賠償額が小さい事故では、保険を使って受け取る金額と、事故有係数が続く期間の保険料の増加分を比べて判断する方法があります。ただし、保険を使わずに自費で対応する場合でも、事故が起きた事実は保険会社へ報告しておくのが一般的です。事故直後は症状がなくても、数日たってから痛みが出る例があるためです。

8.2 保険金の請求に時効はある?

時効はあります。請求先によって期間と数え始める日が異なるため、どの請求にどの期限が当てはまるのかを分けて把握しておく必要があります。

請求の種類期間数え始める日の目安
加害者への損害賠償請求(人身損害)5年損害と加害者を知った時。後遺障害による損害は症状固定の時期が基準として扱われる例があります
加害者への損害賠償請求(物損)3年損害と加害者を知った時
自賠責保険への被害者請求3年傷害は事故日、後遺障害は症状固定日、死亡は死亡日
任意保険の保険金請求(人身傷害保険など)3年保険事故が発生した時など、法律や約款の定めによります
政府保障事業への請求3年自賠責保険の被害者請求に準じて数えます

加害者に対する賠償請求には、事故から20年が過ぎると請求できなくなる期間の定めもあります。ただ、実際に注意が必要なのは3年や5年の期間です。

通院が長引いた場合や、後遺障害の認定結果を待っている場合は、気づかないうちに期限が近づいていることがあります。示談がまとまらないまま時間が過ぎたときは、時効の完成を先延ばしにする手続きを検討します。たとえば、加害者側が賠償義務を認めて一部を支払った場合や、書面で協議を行う合意をした場合、裁判を起こした場合などは、時効の進み方が変わることがあります。

自賠責保険の請求では、加害者側の保険会社を通じて時効の更新に関する手続きが用意されています。期限が近いと感じたら、期限が切れる前に保険会社や法律の専門家へ相談することが大切です。

8.3 保険会社の提示額は妥当なのか

保険会社から示談金の提示を受けたとき、その金額が適正かどうかは、内訳を項目ごとに確認しないと判断できません。提示額は、保険会社が独自に定める基準で計算されていることが多く、基準によって慰謝料などの金額に差が出る場合があります。基準の違いは第5章で触れた内容のため、ここでは提示書面を見るときの確認点に絞ります。

確認する項目見るべきポイント
慰謝料どの算定基準で計算されているか。通院期間と実際の通院日数のどちらを基にしているか
休業損害1日あたりの収入の算出方法と、認められた休業日数が実態と合っているか
治療関係費通院交通費や付添費など、領収書や記録のある費用が含まれているか
過失割合事故状況に照らして妥当か。ドライブレコーダーの映像や実況見分の記録と食い違いがないか
後遺障害に関する項目認定された等級が反映されているか。逸失利益の計算に使う労働能力の喪失率や期間が適切か
示談書の文言将来症状が悪化した場合の扱いや、以後の請求ができなくなる旨の条項の有無

特に見落とされやすいのは、通院交通費や休業損害の請求漏れです。保険会社が自ら項目を足して提示してくれるとは限らないため、通院の記録や勤務先の証明などを手元にそろえて照らし合わせます。

過失割合も、賠償額を大きく左右します。自分に過失があると認められると、その割合に応じて受け取れる賠償額が減るためです。保険会社の説明に納得できない場合は、事故状況の資料を基に根拠を尋ねます。

示談書に署名した後は、原則として内容を変更できません。疑問が残る状態では署名せず、持ち帰って確認することを意識してください。

8.4 弁護士に依頼すると慰謝料は増える?

弁護士に依頼すると、慰謝料が増える可能性はありますが、必ず増えるとは限りません。増える可能性があるのは、弁護士が交渉の場で裁判所の判断を踏まえた基準を用いて請求するためです。保険会社が個人との示談交渉で提示する額より、高い水準で話し合える場合があります。

慰謝料以外にも、次のような場面で結果が変わることがあります。

場面弁護士が関わることで期待できる点
慰謝料の交渉裁判所の判断を踏まえた基準での請求
過失割合の争い事故状況の資料を整理し、割合の見直しを主張
後遺障害の等級認定申請書類の内容の確認や、認定結果に不服がある場合の異議申立ての準備
休業損害・逸失利益収入や仕事内容に応じた算定の主張
保険会社とのやり取り連絡窓口を任せられ、対応の負担を減らせる

一方で、依頼すれば得になるとは言い切れません。通院が短く症状が軽い場合や、すでに保険会社の提示額が高い水準に近い場合は、増額の幅が小さくなります。そのうえ、増えた額より弁護士に支払う費用のほうが大きくなる、いわゆる費用倒れになる場合もあります。

ご自身の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、費用の自己負担を抑えられる可能性があります。ただし、補償の上限や使える範囲は契約ごとに異なります。特約の詳細は第3章で説明している内容のため、ここでは契約内容の確認が出発点になるとだけ触れておきます。

相談の時期は、示談書に署名する前が望ましいといえます。示談成立後に内容を覆すのは難しく、後から追加の請求ができないことがあるためです。提示額を受け取る前に、見積もりや費用の見通しを聞いたうえで、依頼するかどうかを判断すると納得しやすくなります。

9. まとめ

交通事故で使える保険には、自賠責保険、任意保険、健康保険や労災保険などがあります。自賠責保険は人身損害が対象で、物損は補償されません。不足分は相手方や自分の任意保険で補う形になります。

健康保険を使う場合は、第三者行為による傷病届の提出が必要です。仕事中や通勤中の事故では、労災保険を利用できます。

事故直後は警察と保険会社へ連絡し、治療の打ち切りを打診されたときや示談の前には、内容をよく確認しましょう。後遺症が残る場合は、後遺障害等級認定の申請も検討できます。

何かお困りごとがありましたら当院へお問い合わせください。