自賠責保険は、交通事故の被害者の人身損害を補償するため、車やバイクの所有者に加入が義務づけられている保険です。治療関係費、慰謝料、休業損害などが支払われますが、物の損害は対象外です。健康保険が病気やけが全般への備えであるのに対し、自賠責保険は事故の被害者への賠償を目的としています。請求は被害者自身でも行え、時効は原則3年です。この記事では、補償範囲と限度額、請求の流れと必要書類、後遺障害等級認定の考え方、過失割合との関係、自賠責保険で足りない場合の対処法を順に整理します。
1. 交通事故で自賠責保険とは何かを最初に確認
交通事故の被害に遭った直後は、治療や仕事の調整に追われて、相手側のどの保険から何が支払われるのかまで考える余裕がないことが多いものです。ただ、自賠責保険の位置づけを先に知っておくと、その後の通院先の選び方や、保険会社とのやり取りの見通しが立てやすくなります。ここでは、制度の目的、任意保険との違い、相手が未加入だった場合の考え方を順に整理します。
1.1 自賠責保険の目的と対象となる事故
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法にもとづいて、原動機付自転車を含むすべての自動車とバイクに加入が義務づけられている保険です。強制保険とも呼ばれます。事故で他人を死傷させた運転者の損害賠償責任を担保し、被害者が最低限の補償を受けられるようにすることが目的です。加入せずに運転すると、懲役または罰金の対象になるほか、免許停止の処分を受けることがあります。
対象になるのは、自動車やバイクの運行によって他人が死傷した人身事故です。歩行者や自転車に乗っていた人、相手の車に同乗していた人などが被害者として想定されています。一方で、加害者自身のけがや、車・建物・持ち物といった物の損害は対象になりません。物損の扱いについては、後の章で詳しく触れます。
| 区分 | 自賠責保険の対象 | 具体例 |
|---|---|---|
| 対象になる | 自動車やバイクの事故で、他人が死亡またはけがをした場合 | 信号待ちの停車中に追突されて首を痛めた、横断歩道を歩行中に車と接触した |
| 対象にならない | 物の損害のみの事故 | 車の修理、壊れた持ち物、店舗の設備などの損害 |
| 対象にならない | 加害者本人のけが | 単独事故で運転者自身が負傷した場合 |
| 対象にならない | 自動車やバイクが関わらない事故 | 自転車同士の接触事故 |
自賠責保険は被害者の救済を重く見た制度のため、被害者は加害者側の保険会社や共済に対して、保険金を直接請求できる仕組みが用意されています。具体的な請求の進め方は、手続きの章で説明します。
1.2 任意保険との違い
自動車の保険には、自賠責保険のほかに、加入するかどうかを本人が選べる任意保険があります。自賠責保険は人身事故の被害者に対する最低限の補償を確保するための土台であり、任意保険はその土台で足りない部分や、自賠責保険では対象外の損害を補うための上乗せという関係にあります。
| 比較項目 | 自賠責保険 | 任意保険 |
|---|---|---|
| 加入 | 法律で義務づけられている | 契約者が自分で選んで加入する |
| 補償の対象 | 他人を死傷させた人身事故のみ | 対人賠償、対物賠償、自分や同乗者のけが、車両の損害など、契約内容によって広がる |
| 補償の水準 | 全国共通で、支払われる上限が定められている | 契約ごとに異なり、上限を設けない契約もある |
| 示談交渉 | 保険会社が加害者に代わって示談交渉を行う仕組みはない | 対人賠償や対物賠償では、保険会社の担当者が加害者に代わって交渉する契約が一般的 |
| 取り扱い | 損害保険会社と共済 | 損害保険会社と共済 |
実際の事故では、加害者が任意保険に入っていると、相手方の保険会社の担当者から連絡が来て、自賠責保険の分もあわせて一括で対応される流れになることがよくあります。この場合、被害者は自賠責保険に直接請求しなくても済みますが、自賠責保険の基準と任意保険会社の基準は別物であることは知っておく必要があります。提示された内容がどちらの基準に沿ったものか分からないまま進めてしまうと、後から見直しにくくなることがあります。
1.3 自賠責保険に加入していない車やバイクによる事故はどうなる?
自賠責保険への加入は義務ですが、有効期間が切れたまま走っていたり、そもそも加入していなかったりする車やバイクが事故を起こすことも、まれにあります。この場合、保険会社や共済に請求する手続きは使えません。被害者は加害者本人や、事故の責任を負う立場にある人に対して、損害賠償を直接求めることになります。
ただし、加害者に十分な支払い能力がなければ、請求しても回収が進まない恐れがあります。こうした被害者を救うために、国が運営する政府保障事業という制度が設けられています。ひき逃げで加害者が分からない場合も、この制度の対象になり得ます。詳しい要件や手続きは、後の章で解説します。
どのような相手であっても、事故直後に警察へ届け出ておくことが前提になります。届け出がないと、事故の事実を示す交通事故証明書が発行されず、保険金や補償金の請求の場面で支障が出るためです。相手の氏名、連絡先、車両のナンバー、加入している保険の情報は、その場で控えておくと、後の手続きで役立ちます。
2. 交通事故の自賠責保険で補償される範囲と限度額
自賠責保険が補償するのは、交通事故で他人がけがをしたり亡くなったりした場合の人身損害に限られます。支払いには被害者1名ごとに上限があり、傷害、後遺障害、死亡の3つに区分されています。以下の金額は、2020年4月1日以降に発生した事故に適用されるものです。
| 損害の区分 | 限度額(被害者1名につき) | 主な内訳 |
|---|---|---|
| 傷害 | 120万円 | 治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料 |
| 後遺障害 | 75万円から4,000万円(等級により異なる) | 逸失利益、慰謝料など |
| 死亡 | 3,000万円 | 葬儀費、逸失利益、慰謝料 |
傷害の限度額に治療費が含まれる点には注意が必要です。治療が長引くほど治療費が膨らみ、その分だけ慰謝料や休業損害に充てられる余地が小さくなります。
2.1 傷害による損害の限度額
けがをした場合に支払われるのは、治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料を合計して120万円までです。後遺障害や死亡に至らないけがの場合は、この枠の中でやりくりすることになります。
2.1.1 治療関係費
治療関係費として認められるのは、必要かつ妥当な実費です。社会通念上、治療に必要と考えられる範囲かどうかが基準になります。
| 費用の種類 | 内容と基準 |
|---|---|
| 診察・検査・投薬・処置・手術 | 治療のために必要な範囲の実費 |
| 入院料 | 原則として相当な実費。大部屋以外の特別室は、症状によりやむを得ない場合に限られます |
| 看護料 | 入院中は原則として1日4,200円、自宅看護や通院の付き添いは1日2,100円 |
| 入院雑費 | 入院1日につき1,100円 |
| 通院交通費 | 通院に必要な電車、バスなどの実費 |
| 診断書・明細書などの文書料 | 発行に必要な実費 |
| 整骨院などでの施術費 | 必要かつ妥当な範囲の実費。施術の必要性が問われます |
施術費は、症状との関係や施術の内容によっては、全額が認められない場合もあります。この点は、後半のよくある質問で詳しく扱います。
2.1.2 慰謝料
傷害の慰謝料は、1日につき4,300円が基準です。対象となる日数は、初診から治療が終わるまでの総日数と、実際に通院した日数を2倍にした日数を比べて、少ないほうを基本とします。たとえば治療期間が90日でも、通院が30日であれば、2倍の60日が対象日数になります。この場合の慰謝料は、60日分の25万8,000円です。
対象日数の考え方や、被害者の過失がある場合の扱いは、慰謝料と過失割合の章で詳しく扱います。
2.1.3 休業損害
けがで仕事を休み、収入が減った場合に支払われるのが休業損害です。1日あたり原則6,100円で、実際の収入減が確認できる資料があれば、1日19,000円を上限に実額が認められます。
| 立場 | 扱いと確認される主な資料 |
|---|---|
| 会社員・パート・アルバイト | 勤務先が作成する休業損害証明書などで、休業日数と収入減を確認します。有給休暇を使った日も対象になります |
| 自営業 | 確定申告書などの資料で事故前の収入を確認します |
| 家事に従事する人 | 収入がなくても対象になり、原則として1日6,100円が基準です |
休業損害は、休んだ日数分だけが対象です。通院のために半日だけ休んだ場合などは、実際の減収に応じて判断されます。
2.2 後遺障害による損害の限度額
治療を続けても症状が残り、後遺障害の等級が認定された場合は、等級に応じた限度額の範囲内で、逸失利益と慰謝料などが支払われます。逸失利益とは、後遺障害によって将来得られなくなる収入のことです。この支払いは、傷害の120万円とは別枠で計算されます。
| 区分 | 等級 | 限度額 |
|---|---|---|
| 介護を要する後遺障害 | 第1級(常時介護) | 4,000万円 |
| 第2級(随時介護) | 3,000万円 | |
| 上記以外の後遺障害 | 第1級 | 3,000万円 |
| 第2級 | 2,590万円 | |
| 第3級 | 2,219万円 | |
| 第4級 | 1,889万円 | |
| 第5級 | 1,574万円 | |
| 第6級 | 1,296万円 | |
| 第7級 | 1,051万円 | |
| 第8級 | 819万円 | |
| 第9級 | 616万円 | |
| 第10級 | 461万円 | |
| 第11級 | 331万円 | |
| 第12級 | 224万円 | |
| 第13級 | 139万円 | |
| 第14級 | 75万円 |
むちうちなどで認定されることが多い第12級と第14級は、限度額がそれぞれ224万円と75万円です。等級が認定されなかった場合、後遺障害分は支払われません。認定を受けるための進め方は、請求のコツの章で扱います。
2.3 死亡事故の場合の限度額
被害者が亡くなった場合の限度額は、被害者1名につき3,000万円です。内訳は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 葬儀費 | 原則として100万円。これを超える場合は、必要かつ妥当な実費が認められます |
| 逸失利益 | 事故がなければ得られたはずの収入から、本人の生活費などを差し引いて算出します |
| 被害者本人の慰謝料 | 400万円 |
| 遺族の慰謝料 | 請求する遺族が1名なら550万円、2名なら650万円、3名以上なら750万円。被扶養者がいる場合は、200万円が加算されます |
事故から死亡までの間に治療を受けていた場合は、その治療関係費や慰謝料などが、傷害の限度額120万円の範囲内で別に支払われます。
2.4 物損事故は自賠責保険の対象外
自賠責保険は人身損害だけを対象にしているため、車や持ち物の修理費、代車費用などの物の損害は支払われません。これらは、加害者が加入している任意保険の対物賠償や、加害者本人への請求で対応することになります。
なお、同じ事故でも、被害者が負ったけがは自賠責保険の対象で、壊れた車は対象外です。それぞれ請求先が異なるため、分けて考える必要があります。
3. 交通事故の自賠責保険と健康保険の違い
交通事故でけがをしたとき、費用に関わる制度として自賠責保険と健康保険の2つが挙がります。この2つは目的も支払う相手も異なるため、どちらか一方を選ぶのではなく、役割を分けて考えると整理しやすくなります。
3.1 補償の目的と対象範囲の違い
自賠責保険は、交通事故の被害者が加害者に請求できる損害賠償を、最低限の範囲で確保するための制度です。一方、健康保険は、加入者が病気やけがをしたときに、医療費の一部を保険者が負担する公的な医療保険です。前者は加害者の賠償責任が出発点で、後者は事故の原因を問わず医療費を支える仕組みという点が大きな違いです。
| 比較項目 | 自賠責保険 | 健康保険 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 被害者の損害賠償を確保し、救済を図る | 加入者の医療費の負担を軽くする |
| 対象となる原因 | 自動車やバイクによる人身事故 | 業務や通勤以外のけが、病気など原因は幅広い |
| 費用を負担する側 | 加害者側の自賠責保険会社 | 加入している保険者 |
| 対象となる損害 | 治療関係費、慰謝料、休業損害、後遺障害や死亡による損害など | 診察や施術などの医療費、薬代など |
| 請求や手続きの窓口 | 加害者側の保険会社、または被害者自身による請求 | 受診先の窓口と、加入先への届出 |
| 被害者の過失の扱い | 過失が大きい場合に限り減額される | 過失の大きさによる給付の増減はない |
表のとおり、健康保険は医療費だけを対象にしています。事故で仕事を休んだ分の収入や、精神的な苦痛に対する慰謝料は、健康保険では補われません。これらは加害者側への損害賠償として、自賠責保険や任意保険から支払われる部分です。
3.2 交通事故でも健康保険は使えるのか
交通事故によるけがでも、健康保険を使って治療を受けることは可能です。国の通知でも、第三者の行為によるけがは健康保険の給付対象とされています。「事故は加害者が費用を負担するので健康保険は使えない」という説明を受けることがありますが、健康保険を使うかどうかは被害者が判断できます。
ただし、次のようなケースでは扱いが異なります。
- 仕事中や通勤途中の事故は、健康保険ではなく労災保険の対象になります。
- 被害者自身の故意の犯罪行為や重大な違反が原因の場合は、給付が制限されることがあります。
健康保険を使う場合は、受診先や施術を受ける施設の窓口で、交通事故によるけがであることを最初に伝えるようにします。この申告があると、後から保険者が加害者側へ費用を請求する手続きに移れます。伝え忘れると、通常のけがとして処理されてしまい、後から保険者への連絡で手間が増えることがあります。
3.3 健康保険を使うときの第三者行為による傷病届
交通事故で健康保険を使うときは、加入している保険者に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。提出先は、会社員であれば協会けんぽや健康保険組合、自営業などの場合は市区町村の国民健康保険、後期高齢者医療制度の対象者は後期高齢者医療広域連合です。提出は、受診を始めたあと早めに行うのが一般的です。
この届出が必要なのは、健康保険が負担した医療費を、保険者があとから加害者側へ請求する仕組みがあるためです。保険者が事故の状況や加害者を把握できるように、次のような書類を求められます。必要な書類や様式は保険者ごとに異なるため、提出前に加入先へ確認してください。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 第三者行為による傷病届 | 事故の日時や場所、加害者の情報、けがの状況などを記入する |
| 事故発生状況報告書 | 事故の状況を図や文章で説明する |
| 交通事故証明書 | 事故が発生した事実を証明する書類で、警察への届出が前提になる |
| 念書や誓約書 | 示談の内容を保険者に報告することなどを約束する書類 |
手続きで特に気をつけたいのが示談です。保険者への報告なく示談を成立させると、健康保険が負担した医療費の請求に支障が出て、給付が受けられなくなるおそれがあります。示談の話が出てきたら、先に保険者へ相談しておくと安心です。警察に届け出ていない場合は交通事故証明書が発行されず、届出の手続きも止まってしまうため、事故直後に警察へ連絡しておくことが前提になります。
3.4 健康保険を使うメリットとデメリット
健康保険を使うかどうかは、費用の負担だけでなく、示談や過失割合への影響も踏まえて考えるとよいでしょう。主な違いを整理すると次のとおりです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 窓口で支払う医療費が自己負担割合の範囲に収まる 治療費の総額を抑えられ、自賠責保険の傷害の限度額を慰謝料や休業損害に回しやすくなる 被害者にも過失がある場合、過失分として自己負担する治療費が小さくなる 加害者側との交渉が長引いても、治療を続けやすい |
| デメリット | 第三者行為による傷病届など、書類の準備と提出が必要になる 加害者側の保険会社が治療費を直接支払う対応をしていない間は、窓口で自己負担分をいったん立て替える場合がある 健康保険の対象とならない費用は全額自己負担になる 示談の時期や内容について、保険者との調整が必要になる |
過失割合との関係は、具体例で考えると分かりやすくなります。被害者の過失が3割と判断された場合、治療費の3割は被害者の負担となります。同じ治療を受けても、健康保険を使えば元になる治療費の総額が小さくなり、その3割も小さくなります。また、傷害による損害は治療費と慰謝料、休業損害を合わせて自賠責保険の限度額が決まっているため、治療費が膨らむと慰謝料などに充てられる余地が狭まります。治療が長引きそうな場合や、被害者にも過失がありそうな場合は、健康保険の利用を検討する価値があります。
一方で、健康保険を使った場合でも、窓口で支払った自己負担分は、加害者側へ損害賠償として請求できます。健康保険を使うことは請求を諦めることではなく、請求の対象となる治療費の総額を適正な範囲に抑える方法のひとつと捉えるとよいでしょう。
4. 交通事故の自賠責保険はどう請求する?手続きの流れ
自賠責保険の保険金は、請求の手続きをしなければ支払われません。請求には、加害者が行う方法と被害者が直接行う方法があり、被害者が自分で進める場合は被害者請求になります。この章では、請求方法の違い、被害者請求の進め方、当座の費用を受け取る制度、必要書類の順に説明します。
4.1 加害者請求と被害者請求の違い
自賠責保険の請求方法は、自動車損害賠償保障法の第15条に基づく加害者請求と、第16条に基づく被害者請求の2つです。違いは、誰が請求するか、賠償金を受け取る順序がどうなるかにあります。
| 項目 | 加害者請求 | 被害者請求 |
|---|---|---|
| 請求する人 | 加害者(保有者や運転者) | 被害者本人、または亡くなった場合の遺族 |
| 請求の前提 | 加害者が被害者へ損害賠償金を先に支払っていること | 加害者の支払いを待たずに請求できる |
| 保険金の受取先 | 加害者 | 被害者 |
| 被害者にとっての特徴 | 加害者の対応や資力に左右される | 示談の成立前でも手続きを進められる |
加害者が任意保険に加入している場合、任意保険会社が自賠責保険の分も含めて被害者への支払いをまとめて行う一括対応が取られることが多く、被害者が自賠責保険の窓口を意識しないまま進むケースがあります。一括対応の仕組みは後の章で扱います。
被害者請求を検討する主な場面は、次のとおりです。
- 加害者が任意保険に加入しておらず、賠償金の支払いが見込めない場合
- 過失割合や治療期間をめぐって話し合いが長引き、示談が進まない場合
- 治療費の支払いが打ち切られたあとも、通院を続けたい場合
- 後遺障害の等級認定に向けて、提出する資料を自分で確認しながら進めたい場合
被害者請求は、示談の成立を待たずに保険金を受け取れる点が大きな特徴です。一方で、書類の収集や提出は請求する側が自分で行う必要があります。
4.2 被害者請求の手順
被害者請求は、おおむね次の順序で進みます。
- 警察へ事故を届け出て、交通事故証明書を取得する
事故が起きたらその場で警察に連絡し、届出を済ませます。交通事故証明書は自動車安全運転センターが発行する書類で、自賠責保険の請求に欠かせません。けがをしているのに物件事故として扱われたままだと、事故とけがの関係を確認するために時間がかかる場合があります。人身事故として届け出ているかを確認しておくと安心です。 - 加害車両の自賠責保険会社を確認する
請求先は、加害車両が加入している自賠責保険の保険会社または共済組合です。交通事故証明書に保険会社名と証明書番号が記載されているため、まずはそこを確認します。記載がない場合は、加害者本人に確認します。 - 請求先へ連絡し、請求書類を取り寄せる
請求先の窓口に連絡し、被害者請求を行う旨を伝えると、所定の請求書類が送られてきます。書式は保険会社ごとに異なる場合があるため、請求先から受け取った様式を使います。 - 必要書類を集めて記入する
診断書、診療報酬明細書、印鑑証明書などを用意します。通院先で作成してもらう書類は発行に日数がかかることがあるため、早めに依頼しておくと流れが滞りにくくなります。 - 書類一式を請求先へ提出する
郵送で提出するのが一般的です。提出前に全ページの控えを手元に残しておくと、あとから内容を確認する際に役立ちます。 - 保険会社による内容の確認と調査が行われる
提出された書類をもとに、事故の状況やけがとの関係、治療内容が確認されます。後遺障害が含まれる場合は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所で等級の審査が行われます。確認が必要な事項があると、追加書類を求められることがあります。 - 支払額が決まり、指定口座へ振り込まれる
約款上は、必要書類が保険会社に届いてから原則30日以内に支払うとされています。ただし、事故状況の確認や後遺障害の審査が必要な場合は、これより長くかかることがあります。
傷害分の請求は、治療が終わってから一度にまとめて行う方法のほかに、治療の途中で請求する方法もあります。途中で請求する仕組みについては、次の見出しで説明します。
4.3 治療費の支払いに困ったときの仮渡金制度
仮渡金制度は、被害者請求の本請求で保険金が決まるまでに時間がかかるとき、当面の治療費や生活費にあてる資金を先に受け取れる仕組みです。請求できるのは被害者で、被害者が亡くなった場合は遺族が対象になります。請求先は、本請求と同じく加害車両の自賠責保険会社です。
仮渡金の金額は、傷害の程度や死亡といった区分に応じて定められています。そのため、軽い傷害では対象にならない場合があります。具体的な区分と金額は、請求先の窓口で確認してください。
治療が長引く場合は、仮渡金のほかに内払金という仕組みもあります。2つの違いは次のとおりです。
| 項目 | 仮渡金 | 内払金 |
|---|---|---|
| 目的 | 損害額が確定する前に、当面の資金を受け取る | 治療の途中で、すでに確定した損害の一部を受け取る |
| 支払いの根拠 | 傷害の程度などに応じた区分 | これまでにかかった治療費などの実績 |
| 主な必要書類 | 診断書、交通事故証明書、請求書 | 診療報酬明細書など、費用の内訳がわかる書類 |
| 請求できる条件 | 傷害の程度が区分に該当すること | 約款で定められた条件を満たすこと |
仮渡金を受け取った場合は、あとで本請求を行う際に、受け取った分が差し引かれます。注意したいのは、最終的に認定された損害額が仮渡金より少なかった場合、差額を返還する必要がある点です。通院先への支払いが続くなかで資金繰りが厳しい場合に利用する制度として、あらかじめ仕組みを理解しておくとよいでしょう。
4.4 請求に必要な書類一覧
被害者請求では、事故の事実、けがの内容、損害の金額を裏づける書類をそろえます。まず、ほとんどの請求で共通して必要になる書類を示します。
| 書類名 | 入手先・作成者 | 内容と注意点 |
|---|---|---|
| 支払請求書兼支払指図書 | 請求先の保険会社または共済組合 | 被害者が記入し、請求する損害の内訳と振込先を記載します |
| 交通事故証明書 | 自動車安全運転センター | 事故の日時、場所、当事者、加害車両の保険会社名などが記載されます |
| 事故発生状況報告書 | 請求先の所定様式 | 事故の状況を図と文章で説明します。実際の状況と一致するよう記入します |
| 診断書または施術証明書 | 通院先 | 傷病名、治療期間、治療の経過などが記載されます |
| 診療報酬明細書または施術費明細書 | 通院先 | 治療内容と費用の内訳を示す書類です |
| 印鑑証明書 | 市区町村の窓口 | 請求者本人のものを用意します |
| 通院交通費明細書 | 被害者が作成 | 通院日ごとの経路や交通費を記録します。日々の記録をつけておくと作成しやすくなります |
請求する内容や請求者の状況によって、次の書類が追加で必要になります。
| 状況 | 追加で必要な書類 | 補足 |
|---|---|---|
| 休業損害を請求する | 休業損害証明書、前年分の源泉徴収票 | 休業損害証明書は勤務先が作成します。自営業の場合は、確定申告書の控えなど収入を示す資料を求められることがあります |
| 後遺障害の等級認定を受ける | 後遺障害診断書、検査結果の資料 | 症状固定後に通院先へ作成を依頼します |
| 仮渡金を請求する | 仮渡金の請求書、診断書、交通事故証明書 | 本請求より少ない書類で手続きできます |
| 被害者が亡くなった | 死亡診断書または死体検案書、戸籍謄本、遺族の印鑑証明書 | 請求できる遺族の範囲は法律で定められています |
| 代理人が請求する | 委任状、代理人の印鑑証明書 | 被害者が未成年の場合は、親権者などの法定代理人が手続きします |
書類の様式や必要な枚数は、事故の内容や請求先によって異なることがあります。書類を取り寄せる際に、請求先の窓口へ自分の状況を伝えて必要書類を確認しておくと、提出後の不足を防ぎやすくなります。印鑑証明書のように発行日からの期間が定められている書類もあるため、取得する時期にも気をつけてください。
5. 自賠責保険を請求するときのコツと注意点
自賠責保険の支払い審査は、提出された書類をもとに行う書面審査が中心です。事故の状況や症状、通院の経過が書類にどう記録されているかが、結果に影響します。ここでは、通院中、書類の準備、後遺障害の申請、時効管理の四つの場面に分けて、請求前に押さえておきたい点を整理します。
5.1 通院は途切れさせず症状を正確に伝える
通院の記録は、事故によるけがの経過を示す資料になります。通院の間隔が大きく空いたり、途中で通院をやめたりすると、症状が軽くなったと受け取られたり、事故との結びつきが見えにくくなったりする可能性があります。通院頻度に一律の基準があるわけではありません。症状や仕事の都合に合わせて無理のない範囲で続け、通えない事情があるときは、その理由を通院先に伝えておくと経過を説明しやすくなります。
症状の伝え方も重要です。事故直後に伝えなかった部位の痛みを後から訴えると、事故との関係を確認しにくくなることがあります。初診の段階で、気になる部位は小さなものでも話しておくことをおすすめします。診察では次のような点を具体的に伝えると、記録に残りやすくなります。
- 痛みやしびれがある部位と、その広がり方
- どんな動作や時間帯に強くなるか
- 仕事や家事、睡眠で困っていること
- 前回の診察から変化したこと
症状を軽く言いすぎても大きく言いすぎても、記録と実際の状態にずれが生じます。ありのままを伝える姿勢が大切です。日々の症状をメモしておくと、診察で聞かれたときにも答えやすくなります。
| 場面 | 起こりやすい問題 | 心がけたい対応 |
|---|---|---|
| 仕事の都合で通院が空く | 経過が途切れ、症状の継続が確認しにくくなる | 通院先に事情を伝え、通える日程を相談する |
| 痛みが軽くなり自己判断でやめる | 再び痛みが出たときに事故との関係を説明しにくい | 通院の終了時期は通院先と相談して決める |
| 受傷部位を一部しか伝えていない | 後から訴えた症状が記録上の裏付けを得にくい | 初診時に気になる症状をすべて伝える |
整骨院や接骨院に通っている場合も、並行して病院で診察を受けておくことが望ましいです。診断書や後遺障害診断書は、診察を受けている通院先に作成を依頼する書類だからです。施術費の扱いについては、よくある質問の章で触れます。
5.2 書類の不備を防いでスムーズに受け取る
書類に不備があると、保険会社から返送されたり追加の提出を求められたりして、支払いまでの期間が延びることがあります。必要書類そのものは前の章で確認したとおりですので、ここでは不備につながりやすい箇所を提出前に点検することに絞って説明します。
| 点検する箇所 | 起こりやすいミス | 対処の例 |
|---|---|---|
| 交通事故証明書の区分 | 物件事故のままで、人身事故として扱われていない | けがの診断を受けたら、警察に人身事故への切り替えを相談する |
| 記入欄 | 空欄が残る、訂正の方法が誤っている | 提出前に全項目を見直し、訂正が必要なときは保険会社に方法を確認する |
| 診断書と請求内容 | 傷病名や通院期間が実際の経過と合っていない | 受け取った時点で内容を読み、相違があれば通院先に確認する |
| 事故状況の説明 | 日時や場所、双方の動きが他の書類と食い違う | 交通事故証明書や警察への届出内容と照らし合わせて記入する |
| 休業損害に関する書類 | 勤務先の記入漏れや押印漏れがある | 勤務先に記入の依頼をする際、休業した期間を伝えておく |
| 印鑑証明書などの公的書類 | 発行日から時間が経ち、有効期間を過ぎている | 書類を準備する段階で、保険会社に有効期間の目安を確認する |
とくに人身事故への切り替えは、けがの診断を受けたのに物件事故のままにしておくと、請求の手続きで事故の状況を説明する負担が増える場合があります。事故から日数がたつほど切り替えの相談が難しくなることがあるため、早めに警察へ確認してください。
診断書は、作成を依頼してから受け取るまでに日数がかかることがあります。請求を予定している時期から逆算して、早めに依頼しておくと安心です。提出する書類は、郵送前にすべてコピーを取っておいてください。保険会社から問い合わせがあったときに、提出内容をすぐ確認できます。書き方に迷う項目は、自己判断で書かず、窓口となる保険会社の担当者に確認するのが確実です。
5.3 後遺障害等級認定を受けるためのポイント
治療を続けても症状が残り、これ以上大きな改善が見込めない状態を症状固定といいます。症状固定の後に後遺障害診断書を提出すると、損害保険料率算出機構の調査事務所で、後遺障害の等級に当たるかどうかが審査されます。等級は1級から14級まであり、むちうちなどの神経症状では、12級13号や14級9号が検討されることが多いとされています。申請しても認定されるとは限りません。
審査は提出書類にもとづくため、次の点を意識しておくと、症状と事故との関係を示しやすくなります。
- 事故直後から症状固定まで、同じ症状について一貫して通院した記録を残すこと。途中で訴える症状が変わると、判断が難しくなります。
- 後遺障害診断書に、自覚症状と検査結果を漏れなく記載してもらうこと。日常生活で困っている場面も、診察の際に具体的に伝えておきます。
- 画像検査や神経学的検査など、症状を裏付ける検査の結果を提出できるようにしておくこと。むちうちでは画像に異常が表れにくい場合もあるため、検査結果と自覚症状の整合性が見られます。
- 症状固定の時期を急がないこと。症状固定の判断は通院先の診察を踏まえて行い、時期は自分だけで決めず相談して進めます。
申請の方法には、加害者側の任意保険会社に手続きを任せる事前認定と、被害者自身が書類をそろえて請求する被害者請求があります。
| 申請方法 | 手続きを進める人 | 特徴 |
|---|---|---|
| 事前認定 | 加害者側の任意保険会社 | 書類集めの手間は少ないが、どの資料が提出されるかを自分で把握しにくい |
| 被害者請求 | 被害者本人 | 手間はかかるが、添付する資料を自分で選び、提出内容を確認できる |
認定結果に納得できない場合は、異議申立てを行い、追加の資料を添えて再審査を求めることができます。結果の通知書には、等級を判断した理由が記載されています。その内容を確認し、どの資料が足りなかったのかを検討してから申立てを進めてください。
5.4 請求の時効は3年
自賠責保険の被害者請求には時効があり、請求できる期間は原則として3年です。期間を過ぎると、請求しても受け付けられない場合があります。起算する日は、請求する損害の種類によって次のように異なります。
| 請求する内容 | 時効の起算日 |
|---|---|
| 傷害による損害 | 事故が起きた日の翌日 |
| 後遺障害による損害 | 症状固定の診断を受けた日の翌日 |
| 死亡による損害 | 死亡した日の翌日 |
注意したいのは、加害者側の任意保険会社と連絡を取り合っている間も、時効の期間は進んでいくことです。通院が長引いたり、示談の話し合いが進まなかったりして、気づいたときには3年に近づいていたというケースも考えられます。治療を続けている間は、事故の日付から3年がいつになるかを、手帳やカレンダーに記録しておくと管理しやすくなります。
時効が近づいてきた場合は、保険会社に時効の完成を猶予したり更新したりする手続きが取れるかを確認してください。手続きの可否や必要な書類は、状況により異なります。期限が迫ってからではなく、余裕を持って早めに問い合わせることが大切です。
6. 自賠責保険の慰謝料と過失割合の関係
自賠責保険の慰謝料は、法令で定められた1日あたりの金額に対象日数を掛けて計算します。また、被害者にも過失がある事故では、過失の大きさに応じて保険金が減額される場合がありますが、減額の基準は一般的な過失相殺とは異なります。ここでは、慰謝料の計算の仕組みと、過失割合が支払額に与える影響を整理します。
6.1 慰謝料の計算方法
けがの治療に対する慰謝料(傷害慰謝料)は、次の式で計算します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 1日あたりの金額 × 対象日数 |
| 1日あたりの金額 | 2020年4月1日以降に起きた事故は4,300円、同年3月31日以前の事故は4,200円 |
| 対象日数 | 「治療期間(初診日から治療が終わる日までの日数)」と「実際に通院した日数×2」を比べて、少ないほうの日数 |
対象日数が「少ないほう」で決まる点が、金額に大きく影響します。たとえば治療期間が90日の場合、実際に通院した日数によって次のように変わります。
| ケース | 治療期間 | 実通院日数 | 対象日数 | 慰謝料 |
|---|---|---|---|---|
| 通院が少なめ | 90日 | 30日(×2=60日) | 60日 | 258,000円 |
| 通院が多め | 90日 | 50日(×2=100日) | 90日 | 387,000円 |
このように、通院の間隔が空きすぎると実通院日数が減り、対象日数が治療期間より短くなって慰謝料も少なくなる可能性があります。通院の続け方については、別の章で触れた内容もあわせて確認してください。
なお、傷害慰謝料は治療関係費や休業損害と合わせて、傷害による損害の限度額の枠内で支払われます。治療費がかさむと、慰謝料に充てられる部分が限度額の範囲で圧迫されることがあります。後遺障害が残った場合の慰謝料は、通院日数ではなく認定された等級ごとに定められた金額が基準となります。
慰謝料の算定には、自賠責保険の基準のほかに、任意保険会社が独自に設ける基準と、過去の裁判例をもとにした基準があります。示談の場面では、どの基準で計算されているかによって提示額が変わります。
| 基準 | 特徴 |
|---|---|
| 自賠責基準 | 法令で定められた最低限の補償を目的とした基準で、計算方法が公開されています |
| 任意保険基準 | 各保険会社が独自に定める基準で、内容は公開されていません |
| 弁護士基準(裁判所基準) | 過去の裁判例をもとにした基準で、自賠責基準より高い金額になる傾向があります |
6.2 被害者に過失がある場合の減額ルール
自賠責保険は被害者の救済を目的としているため、被害者の過失が7割未満であれば、保険金は減額されません。たとえば、被害者に3割の過失がある事故でも、自賠責保険の支払額はそのまま受け取れます。減額が行われるのは、被害者の過失が7割以上と重大な場合に限られます。
| 被害者の過失割合 | 後遺障害または死亡の場合 | 傷害の場合 |
|---|---|---|
| 7割未満 | 減額なし | 減額なし |
| 7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
| 8割以上9割未満 | 3割減額 | 2割減額 |
| 9割以上10割未満 | 5割減額 | 2割減額 |
減額の計算は、積算した損害額と限度額の大小で方法が変わります。損害額が限度額に満たない場合は損害額から、限度額を超える場合は限度額から減額します。たとえば、被害者の過失が8割で傷害の損害額が100万円の場合は、2割を引いた80万円が支払われます。損害額が150万円であれば、限度額の120万円から2割を引いた96万円となります。
ここで注意したいのは、加害者側の任意保険会社との示談では、自賠責保険の減額ルールとは別に、過失割合どおりの過失相殺が行われる点です。たとえば被害者の過失が3割の場合、自賠責保険では減額されませんが、示談で算定される賠償額からは3割が差し引かれます。自賠責保険から先に受け取った金額は、示談の際に賠償額の一部として扱われます。
過失割合は、警察が決めるものではありません。民事上の責任の割合は、当事者や保険会社どうしの話し合いで決まるのが一般的です。判断の材料になるのは、実況見分調書、現場や車両の写真、ドライブレコーダーの記録、目撃者の証言などです。提示された過失割合に納得できないときは、どの事実をもとに割合を算定したのかを確認し、事故当時の状況を裏づける資料を手元にそろえておくと、話し合いを進めやすくなります。
7. 自賠責保険だけで足りない場合の対処法
自賠責保険は、人身事故の被害者に最低限の補償をするための保険です。傷害、後遺障害、死亡のそれぞれに支払われる上限が決まっています。通院が長引いたり後遺障害が残ったりすると、実際の損害が上限を超えることがあります。この章では、不足分をどこに請求できるか、誰に相談できるか、加害者が特定できない場合や無保険の場合にどうなるかを整理します。
7.1 加害者の任意保険会社への請求
加害者が任意保険の対人賠償保険に入っている場合、自賠責保険で足りない部分は、加害者側の任意保険会社に請求するのが一般的です。実務では、加害者の任意保険会社が自賠責保険の分もまとめて被害者に支払い、後で自賠責保険から回収する「一括対応」が多く使われています。被害者が自賠責保険と任意保険の窓口を別々に回る必要がなく、治療費の支払いも任意保険会社が医療機関や施術所に直接行う場合があります。
一括対応が行われていても、支払いの基準は自賠責保険の基準ではなく、任意保険会社が独自に定めた基準で計算されます。一般に、慰謝料などは自賠責保険の基準より高くなる傾向がありますが、後述する裁判所の基準よりは低く提示されることが少なくありません。提示された金額が妥当かどうかは、内訳を確認してから判断することが大切です。
| 請求できる主な項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療関係費 | 通院にかかった費用や通院のための交通費など |
| 休業損害 | 事故によるけがで仕事を休んだことによる収入の減少。家事を担う方も対象になる場合があります |
| 慰謝料 | 事故による精神的な苦痛に対する賠償。通院期間や後遺障害の有無で変わります |
| 逸失利益 | 後遺障害が残ったことで将来の収入が減ると見込まれる分 |
| 物の損害 | 車の修理費や代車費用など。加害者の対物賠償保険に請求します |
示談を結ぶ前に、確認しておきたい点があります。示談が成立すると、原則として内容を後から変更できません。示談後に症状が悪化したり、後遺障害が見つかったりしても、追加の請求が難しくなります。症状が続いている間は、通院を続けながら、治療が一区切りしてから示談の話に進むのが基本です。
通院の途中で、任意保険会社から「そろそろ治療費の支払いを終了したい」と打診されることがあります。この連絡があっても、通院をやめなければならないわけではありません。症状が残っている場合は、通院先で現在の状態や今後の見通しを確認し、その内容を保険会社に伝えて話し合います。打診を受けた後の通院費用は、一時的に自分で立て替え、後から請求する形になることがあります。
加害者の任意保険だけでなく、被害者自身が加入している保険が使える場合もあります。契約内容によって使える範囲が異なるため、保険証券や契約内容を確認してみてください。
| 被害者側の保険 | 役立つ場面 |
|---|---|
| 人身傷害保険 | 自分の過失割合にかかわらず、実際の損害額を基準に保険金が支払われる仕組みです。過失が大きく、相手への請求では減額されてしまう場合に検討できます |
| 無保険車傷害保険 | 相手が任意保険に入っておらず、十分な賠償が受けられない場合に、後遺障害や死亡の損害を補う保険です |
| 搭乗者傷害保険 | 契約した車に乗っていた方のけがに対して、あらかじめ決められた基準で支払われます |
| 弁護士費用特約 | 弁護士への相談や依頼にかかる費用を保険で負担できる特約です。次の項目で詳しく触れます |
7.2 弁護士に相談するメリット
弁護士に相談する大きな理由は、慰謝料などの算定に使われる基準が変わる可能性がある点です。慰謝料の算定には、自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、過去の裁判例をもとにした裁判所の基準(弁護士基準とも呼ばれます)があります。裁判所の基準は、一般に3つのなかで高くなる傾向があります。保険会社との交渉では、被害者本人が裁判所の基準を主張しても受け入れられにくいことがあり、弁護士が代理人になることで、その基準を前提に話し合いが進む場合があります。
弁護士に相談・依頼することで、次のような場面で役立つことがあります。
| 場面 | 弁護士が関わることで期待できること |
|---|---|
| 示談額の提示を受けたとき | 内訳を確認し、慰謝料や休業損害、逸失利益が適正に計算されているかを検討できます |
| 過失割合に納得できないとき | 事故状況をもとに、相手側の主張に対する反論や交渉を任せられます |
| 後遺障害の等級に納得できないとき | 認定結果の理由を踏まえ、異議申立てに向けた資料の整理を進められます |
| 治療費の打ち切りを打診されたとき | 通院の必要性を整理し、保険会社との交渉を任せられます |
| 相手とのやり取りが負担なとき | 連絡や交渉の窓口を一本化でき、通院や仕事に集中しやすくなります |
弁護士への依頼時期は、示談の前であればいつでも検討できます。ただし、示談書に署名する前に相談しておくと、選べる対応の幅が広がります。後遺障害の申請をする前や、保険会社から示談案が届いた時点は、相談を考える一つの目安です。
費用面で不安がある場合は、ご自身やご家族が加入している自動車保険、火災保険、傷害保険などに弁護士費用特約が付いていないか確認してください。特約があれば、弁護士費用を保険でまかなえる場合があります。この特約は、家族が加入するものでも対象になることがあるため、契約者本人だけでなく同居の家族の保険も確認する価値があります。使用にあたっての条件や上限は契約ごとに異なるため、保険会社や代理店に問い合わせて確認してください。
弁護士以外にも、公的な相談窓口や紛争解決の制度があります。自賠責保険の支払いの内容に不服がある場合は、一般財団法人の自賠責保険・共済紛争処理機構に調停を申請できます。また、示談の内容をめぐって保険会社と折り合いがつかない場合は、日弁連交通事故相談センターや交通事故紛争処理センターといった無料の相談・あっせんの窓口を利用できます。最終的には、裁判所での調停や訴訟という選択肢もあります。
7.3 ひき逃げや無保険車の場合の政府保障事業
加害者が逃げて特定できない場合や、加害車両が自賠責保険に加入していなかった場合には、自賠責保険から支払いを受けられません。こうした被害者を救済するために、国が設けているのが政府保障事業です。政府保障事業は、自賠責保険の請求ができない被害者に対して、国が損害の一部をてん補する制度です。
| 比較項目 | 自賠責保険 | 政府保障事業 |
|---|---|---|
| 対象となる事故 | 自賠責保険に加入している車やバイクによる人身事故 | ひき逃げや、自賠責保険に未加入の車やバイクによる人身事故など |
| 支払いの基準 | 自賠責保険の支払基準 | 自賠責保険とほぼ同じ基準と限度額 |
| 他の給付との関係 | 健康保険などを使っていても請求が可能 | 健康保険や労災保険などから受けられる給付は、その分が差し引かれる |
| 請求の窓口 | 加害車両の自賠責保険会社や共済組合 | 損害保険会社や共済組合の窓口(どの会社でも受け付けています) |
政府保障事業では、他の制度から給付を受けられる場合は、その分を差し引いて支払われる点が自賠責保険との大きな違いです。この仕組みは、他の方法で補償を受けられない場合の最後の救済という位置づけだからです。たとえば、健康保険を使って治療を受けた場合は、その給付分が差し引かれるため、実際に受け取れる金額が小さくなる場合があります。仕事中や通勤中の事故であれば、労災保険を先に利用することになります。
ひき逃げの場合は、事故直後に警察へ届け出て、人身事故として扱われていることが大切です。請求の際には、交通事故証明書の提出が求められます。加害者が後から判明した場合や、加害者に賠償能力がある場合には、国が支払った金額を加害者に請求することもあります。
無保険車との事故では、加害者本人に直接、損害賠償を請求できます。ただし、加害者に支払い能力がないケースも少なくありません。その場合は、政府保障事業に加えて、前述の人身傷害保険や無保険車傷害保険が使えないかを確認するとよいでしょう。
請求の期限は、自賠責保険と同じく原則として事故の翌日から3年です。窓口で必要な書類の案内を受けながら、早めに手続きを始めることをおすすめします。
8. 交通事故の自賠責保険に関するよくある質問
8.1 整骨院や接骨院の施術費用は対象になる?
整骨院や接骨院での施術費用は、事故によるけがの回復に必要で、内容が妥当と判断される範囲であれば、自賠責保険の治療関係費として認められる場合があります。自賠責保険は被害者の救済を目的としており、通院先が病院かどうかだけで対象かどうかが決まるわけではありません。ただし、施術費用を支払うかどうかは、保険会社が症状や施術内容を見て個別に判断します。通い始める前に、加害者側の保険会社へ整骨院にも通う予定であることを伝えておくと、後の行き違いを減らせます。
保険会社が主に確認するのは、次のような点です。
| 確認される点 | 内容 |
|---|---|
| 必要性 | 事故によるけがの症状があり、施術を受ける必要がある状態か |
| 相当性 | 施術の内容、通う頻度、期間が症状の程度に見合っているか |
| 事故との関係 | 症状が事故によって生じたものと考えられるか |
| 記録の有無 | 施術の内容や日付、領収書や明細が残っているか |
注意したいのは、病院で診察を受けないまま整骨院だけに通うと、けがの状態を客観的に示す記録が少なくなる点です。その結果、施術の必要性や事故との関係があとから問われやすくなります。事故後はまず病院で診察と検査を受けて診断を記録に残し、そのうえで整骨院を併用するほうが、手続きは進めやすくなります。症状が残って後遺障害等級認定を申請する場合も、病院で作成される後遺障害診断書が必要です。整骨院に通っている間も、病院での経過確認を続けておくことをおすすめします。
施術費用を一時的に自分で立て替えた場合は、領収書と明細書を保管しておいてください。被害者請求で請求するときに、これらが支払いの根拠となる書類になります。
8.2 むちうちで通院した場合の補償はどうなる?
むちうちは、追突などの衝撃で首が大きく揺さぶられて起こる症状を指す一般的な呼び方で、診断名としては頸椎捻挫や外傷性頸部症候群などが使われます。事故直後は痛みが軽くても、数日たってから首や肩の痛み、頭痛、腕のしびれなどが出てくることがあります。症状に気づいた時点で早めに受診しておくと、事故との関係を示しやすくなります。
自賠責保険では、むちうちも傷害による損害として扱われ、次の項目が補償の対象になります。
| 項目 | むちうちでの扱い |
|---|---|
| 治療関係費 | 診察、検査、施術などのうち、必要かつ妥当な実費が対象になります |
| 慰謝料 | 通院した期間と実際に通院した日数をもとに算定されます |
| 休業損害 | けがのために仕事や家事を休んだ場合に、認められる範囲で支払われます |
| 後遺障害に関する損害 | 症状が残り、後遺障害等級に認定された場合に、等級に応じて支払われます |
慰謝料については、初診から治療終了までの期間と、実際に通院した日数を2倍した日数を比べ、少ないほうの日数が算定に用いられます。そのため、通院の間隔が大きく空くと、症状が続いていても慰謝料の対象日数が少なくなる場合があります。治療費、慰謝料、休業損害を合わせた傷害の損害には支払限度額があり、治療が長引くと上限に近づくことがあります。
むちうちは、画像検査で異常がはっきり出にくい点が特徴です。痛みやしびれが残った場合、自賠責保険の後遺障害等級では神経症状として扱われ、一般に14級9号や12級13号が該当しうる等級とされています。認定は提出書類をもとにした審査で、症状の一貫性や通院の経過が判断材料になるとされています。診察のたびに痛む部位や日常生活で困っている動作をそのまま伝え、記録に残してもらうことが大切です。なお、整骨院に通っている場合も、施術のたびに症状の変化を伝えておくと、経過を説明するときの助けになります。
8.3 相手が自賠責保険の手続きに協力しないときはどうする?
加害者が連絡に応じない、書類の作成を拒むといった場合でも、被害者が自賠責保険会社へ直接請求する被害者請求を使えば、手続きを進められます。被害者請求は、加害者との示談が成立していなくても行えます。請求書類の多くは被害者側で用意できるため、加害者の協力が得られないことだけを理由に、請求をあきらめる必要はありません。
協力が得られない場面ごとの対応の方向性は、次のとおりです。
| 困りごと | 対応の方向性 |
|---|---|
| 加害者の自賠責保険の会社が分からない | 交通事故証明書に保険会社名や証明書番号が記載されている場合があるため、まず内容を確認します。記載がなければ、警察に相談します |
| 交通事故証明書が人身事故として扱われていない | 物件事故のままでは手続きが進めにくくなることがあります。けがの診断書を添えて、警察に人身事故への切り替えを相談します |
| 加害者が連絡に応じない | 加害者を介さず、被害者請求で自賠責保険会社に直接請求します |
| 加害者側の保険会社の対応が進まない | やり取りの内容を記録したうえで、被害者請求に切り替えることも検討します |
| 加害者が自賠責保険に未加入、またはひき逃げ | 政府保障事業への請求を検討します |
連絡が取れない相手とのやり取りは、連絡した日時、方法、相手の返答をその都度メモに残しておくと、保険会社や専門家に状況を説明するときに役立ちます。電話だけでなく、書面やメッセージで連絡した記録も残しておくと確実です。
自賠責保険の請求には時効があり、加害者の対応を待っているうちに期限が近づくことがあります。協力を待ち続けるより、早い段階で被害者請求に切り替えるほうが、受け取りが遅れるリスクを抑えられます。自賠責保険会社の支払い判断に納得できない場合は、自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理を申請する方法もあります。手続きの進め方に迷うときは、自賠責保険の窓口になっている損害保険会社の相談窓口に問い合わせて、必要書類や進め方を確認してみてください。
9. まとめ
自賠責保険は人身事故の被害者への最低限の補償を目的とした強制加入の保険で、物損事故は対象外です。補償は傷害・後遺障害・死亡ごとに限度額があり、健康保険も第三者行為による傷病届を出せば使える場合があります。請求は被害者自身でも行え、治療費に困るときは仮渡金制度があります。通院を続けて症状を医師に伝え、書類の不備を防いでください。時効は原則3年です。限度額を超える分は、相手の任意保険会社への請求や弁護士への相談を検討してください。
何かお困りごとがありましたら当院へお問い合わせください。

