交通事故の後に診断書をもらっても痛みが続くのは、むち打ちのように画像に写りにくい症状が長引くことがあるためです。保険会社から治療の打ち切りを告げられても、それを判断しているのは保険会社です。通院先に現在の症状と治療の必要性を確認したうえで、期間の延長を相談する方法があります。症状が残る場合は、症状固定後に後遺障害の等級認定を申請でき、14級9号と12級13号では認定の基準が異なります。示談は成立後に内容を変えにくいため、急がずに弁護士費用特約の有無も確認しましょう。
1. 交通事故で診断書をもらっても痛みが治らないのはなぜ?
診断書を受け取ったあとも痛みが続く背景には、事故で受けた負担の種類、検査で確認できる範囲、診断書に書かれる内容の性質という3つの要素が関わっていると考えられます。ここでは、それぞれがどのように痛みの長引きにつながるのかを整理します。
1.1 交通事故のけがが治らない人は少なくない
交通事故では、体が想定していない方向から短時間に大きな力を受けます。たとえば追突されると、シートベルトで体が固定された状態で首だけが前後に大きく振られることがあります。首や腰の筋肉、靭帯、関節まわりの組織に負担が集中するため、安静にしていても違和感が残ることがあります。
事故直後は緊張や興奮で痛みを感じにくく、帰宅して落ち着いてから、あるいは翌日以降に首の痛みや頭痛、肩のこわばりが強まる例も見られます。そのため、診察時に症状が軽く見えたまま診断書が作成され、後から症状が増えたり強まったりすることもあります。
痛みが続く期間が延びる背景には、次のような日常の事情も関わります。
- 仕事や家事、育児で、体を休める時間を十分に確保できない
- 痛む部位をかばう姿勢が続き、背中や反対側の肩など別の部位にも負担が広がる
- 通院の間隔が空き、症状の変化を確認する機会が減る
- 事故の恐怖や不安で体が緊張しやすくなり、睡眠の質が下がる
回復にかかる期間はけがの程度、年齢、仕事の内容、事故前からの体の状態によって異なります。診断書に書かれた期間より長くかかる人がいても、特別なことではありません。
1.2 むち打ちなど画像に写らない症状は長引きやすい
むち打ちは、診断書では「頸椎捻挫」や「外傷性頸部症候群」などの名称で記載されることが多い症状です。首の筋肉や靭帯、関節包といった軟らかい組織の損傷が中心になるため、レントゲンで骨に異常が見当たらなくても、痛みやしびれが生じることがあります。
検査で確認しやすいものと、そうでないものを整理すると次のとおりです。
| 状態 | レントゲンでの確認 | 補足 |
|---|---|---|
| 骨折・脱臼 | 確認しやすい | 骨の形の変化として写りやすい |
| 筋肉の緊張や微細な損傷 | 写りにくい | 触診や動かしたときの痛みで状態を探ることが多い |
| 靭帯や関節包の損傷 | 写りにくい | 必要に応じて、より詳しい精密検査が検討される |
| 神経の過敏さによるしびれ | 写りにくい | 感覚の確認や、首を動かしたときの症状の出方が手がかりになる |
画像に異常がないことは、痛みがないことと同じ意味ではありません。ただ、目に見える所見が乏しいと、症状の重さが周囲に伝わりにくくなります。本人も「気のせいかもしれない」と考えて通院をやめてしまい、結果として症状が長引くことがあります。
むち打ちでは、首の痛みのほかに次のような症状が重なることがあります。
- 首を回したり倒したりしたときの可動域の制限
- 肩や背中のこり、張り
- 頭痛、めまい、目の疲れ
- 腕や手のしびれ、だるさ
- 寝つきの悪さや、朝起きたときの重さ
これらは天候や疲労、デスクワークなどで強まりやすく、日によって波があります。調子のよい日に無理をして翌日に悪化し、痛みが続いているように感じる例もあります。
1.3 診断書の内容と実際の痛みが食い違うケース
診断書は、診察を受けた時点の所見と、その時点で見込まれる治療期間を書面にまとめたものです。「加療約2週間」などの記載は、その時点での見込みを示すもので、痛みがその期間で消えることを約束するものではありません。経過によって症状が変わることは珍しくないため、記載と実際の痛みに差が出ることがあります。
食い違いが起こりやすい場面を、理由と確認したい点とあわせて表にまとめます。
| 食い違いの場面 | 起こりやすい理由 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 診断書にない部位が後から痛む | 初診時は別の部位の痛みが強く、ほかの症状に気づかなかった | 痛む部位や症状が、診察の記録に残っているか |
| 見込み期間を過ぎても痛みが続く | 見込みは初診時の所見に基づくため、経過までは反映されていない | 現在の症状を、あらためて診察で伝えているか |
| 痛みの訴えと検査結果が合わない | 筋肉や靭帯の状態は画像に出にくい | 痛みの場所、動作、時間帯を具体的に伝えているか |
| 初診で症状を十分に伝えられなかった | 事故直後で動揺しており、痛みを整理して話せなかった | 症状の変化を日付つきで記録しているか |
とくに、診察時に伝えなかった症状は、診断書にも記載されません。後から保険会社や関係者に説明する際、事故との関係が分かりにくくなることがあります。痛みの場所、強さ、出やすい動作や時間帯を日々メモしておき、診察のたびに伝えることで、症状の経過が記録として残りやすくなります。
診断書の記載と実際の痛みの間にずれがあると感じたときの対応は、治療の継続や補償の面にも関わります。これらの詳しい進め方は、あとの章で順に説明します。
2. 保険会社から治療打ち切りと言われる理由
交通事故の治療が続いている途中で、保険会社の担当者から「そろそろ治療費の支払いを終了したい」と連絡が来ることがあります。痛みが残っている段階で言われると戸惑う方が多いのですが、この連絡には保険会社側の判断基準があります。ここでは、どのような理由で、どの時期に打ち切りが打診されやすいのかを整理します。
2.1 治療費の打ち切りが通告されるタイミングの目安
加害者側の保険会社は、多くの場合、通院先に治療費を直接支払う「一括対応」を行っています。打ち切りとは、この一括対応による治療費の支払いを保険会社が終了することを指します。事故から一定期間が過ぎたころに、電話や書面で連絡が入るのが一般的です。
打診が出やすい時期は、事故の内容やけがの種類によって異なります。実務上よく見られる時期の目安は次のとおりです。あくまで目安であり、この期間を過ぎたからといって一律に打ち切られるわけではありません。
| けがの種類 | 打診されやすい時期の目安 |
|---|---|
| 打撲・軽い捻挫 | 事故から1か月から3か月ほど |
| むち打ち(頚椎捻挫・腰椎捻挫) | 事故から3か月から6か月ほど |
| 骨折を伴うけが | 骨がつながる経過や、リハビリの進み具合をみて、半年前後から |
連絡の入り方にも傾向があります。事故から1か月ほどたったころに「現在の状態はいかがですか」と症状を尋ねる電話が入り、その後は月に1回程度、通院の頻度や症状の変化を確認されることが多いようです。そのうえで、「今月末で治療費の支払いを終える予定です」と期日を示して伝えられるのが、典型的な打ち切りの流れです。
2.2 むち打ちは3か月から6か月で打ち切りを打診されやすい
むち打ちで打ち切りが打診されやすいのは、保険会社が「一般的な治療期間」を3か月から6か月程度と捉えていることが多いためです。むち打ちは、レントゲンなどの画像に異常が写りにくく、痛みやしびれ、頭痛といった本人の訴えが中心となる症状であるため、経過を客観的に示す材料が少ない傾向があります。そのため、時間の経過を判断の軸にされやすくなります。
保険会社が打ち切りを検討するときは、期間だけでなく、次のような点も見ています。
| 保険会社が見ている点 | 打診につながりやすい状況 |
|---|---|
| 症状の経過 | 診察の記録に「軽快」「改善傾向」と書かれている、または症状が横ばいで変化がない |
| 通院の頻度 | 通院の間隔が1週間以上あく、月の通院回数が少ない |
| 事故の規模 | 車の損傷が小さく、事故の衝撃が軽微だったとみなされる |
| 検査の結果 | 画像検査や神経の検査で、事故による異常がはっきり確認されていない |
| 治療の内容 | 同じ施術を長く続けているが、症状の変化が記録に残っていない |
| 事故前の状態 | 以前から首や腰に不調があった、加齢による変化が指摘されている |
この表の項目に当てはまっていても、痛みが続いている事実がなくなるわけではありません。大切なのは、保険会社がどの点を根拠に打診しているのかを具体的に聞き取ることです。理由が分かれば、症状の記録を整えたり、通院の間隔を見直したりと、次に取るべき行動を考えやすくなります。
2.3 治療の打ち切りは医師の判断ではなく保険会社の判断
打ち切りの連絡を受けると、「もう通院してはいけない」「治療は終わりと診断された」と受け取ってしまう方がいます。しかし、一括対応は保険会社が任意で行っているサービスであり、これを終了する判断は保険会社が行うものです。症状が回復したかどうかを、通院先が診察のうえで判断した結果とは、必ずしも一致しません。
保険会社は、通院先から取り寄せた診察の記録や、これまでの通院状況をもとに、治療費として支払う範囲を判断します。賠償の対象になるのは、事故と因果関係があり、治療として必要かつ相当な範囲の費用と考えられています。保険会社は、この範囲を超えたと見なした時点で、支払いの終了を申し出るのです。
ここで押さえておきたいのは、次の2点です。
- 打ち切りを告げられても、通院そのものができなくなるわけではありません。一括対応が終わると、通院のたびに窓口で費用を支払う形に変わる場合があります。
- 打ち切り後の治療費を、のちに加害者側へ請求できるかどうかは、保険会社の一方的な通告では決まりません。症状の経過や治療の必要性をふまえ、示談や話し合いの中で判断されます。
また、保険会社が「症状固定」という言葉を使って打ち切りを伝えてくる場合があります。症状固定とは、治療を続けても大きな改善が見込めない状態を指す言葉ですが、これも保険会社が決めるものではなく、通院先での診察の経過を踏まえて判断される事柄です。詳しい意味と手続きは、後遺障害を扱う章で説明します。打ち切りの連絡があった時点では、その場で同意せず、現在の症状と通院の予定を整理してから返答することが、のちの選択肢を狭めないための第一歩になります。
3. 交通事故で痛みが治らないのに治療を打ち切られたときの対処法
保険会社から治療の打ち切りを告げられても、痛みが残っているなら、そこで通院をやめる必要はありません。打ち切りは多くの場合、保険会社が治療費を直接支払う対応を終えるという意味です。通院を続けるかどうかは、症状の状態と主治医の見立てをもとに、ご自身で判断できます。ここでは、打ち切りを告げられた直後から順に、取るべき行動を整理します。
3.1 まずは主治医に現在の症状と治療の必要性を確認する
最初に行いたいのは、保険会社への反論ではなく、主治医への確認です。保険会社に治療の必要性を伝えるときも、主治医の所見があるかどうかで説得力が大きく変わります。
診察では、次の点を具体的に伝えて確認してください。
- 痛みやしびれの場所、強さ、出やすい時間帯や動作
- 仕事や家事、睡眠など、日常生活で困っていること
- 事故直後と比べて、症状がどう変わってきたか
- 現在の治療で症状が軽くなっているのか、変化がないのか
- 今後も治療が必要と考えられるか、必要な場合はおおよその期間
「痛いです」だけでは、カルテに残る内容が限られます。どの動作でどの程度つらいかを具体的に話すと、症状の経過がカルテに記録され、後の交渉や手続きの裏付けになります。
主治医が治療の継続を必要と考えている場合は、その内容を保険会社に伝えてもらえるかも相談してください。対応は通院先によって異なりますが、診断書や意見書の形で所見をまとめてもらえることがあります。一方で、治療を続けても大きな変化が見込めないと言われた場合は、症状固定を考える時期かもしれません。症状固定と後遺障害については別の章で詳しく扱います。
なお、保険会社と話がまとまらないからといって通院を中断すると、通院の空白期間ができます。後から治療の必要性や事故との関係を説明しにくくなる可能性があるため、痛みが続くあいだは通院を続けるほうが安心です。
3.2 保険会社に治療期間の延長を交渉する
主治医の見立てを確認したら、保険会社の担当者に治療期間の延長を申し入れます。延長が認められるかどうかは、症状や通院の状況によって個別に判断されるため、必ず認められるわけではありません。ただし、伝え方や根拠の示し方によって、話が進みやすくなることはあります。
交渉では、次のような材料をそろえておくと整理しやすくなります。
| 伝える内容 | 具体例 |
|---|---|
| 現在の症状 | 首を後ろに倒すと痛みが出る、長時間座ると腕がしびれる、など |
| 主治医の所見 | 治療の継続が必要と判断されていること、その理由 |
| 通院の実績 | これまでの通院頻度、治療を休まず続けてきた経過 |
| 希望する延長期間 | 「あと1か月」のように、期間を区切って伝える |
延長を求めるときは、「もっと通いたい」という希望だけでなく、症状が続いている事実と、治療の必要性を示す根拠をセットで伝えることが大切です。期間を区切って申し出ると、保険会社側も判断しやすくなります。
電話でやり取りした場合は、日時、担当者名、話した内容をメモに残してください。あとで「言った」「言わない」の食い違いが起きたときに、経過を確認できます。
延長が認められなかった場合でも、打ち切り後の治療費を後から請求できる余地が残ることがあります。保険会社が直接支払う対応は終わっても、打ち切り後の治療費が事故による負傷の治療として妥当かどうかは、示談の場面で改めて問題になるためです。交渉が平行線のときは、次に説明する方法で通院を続けながら対応を考えましょう。
3.3 打ち切り後も健康保険を使って通院を続ける方法
交通事故によるけがの治療でも、健康保険を使えます。厚生労働省も、第三者の行為によるけがや病気は健康保険の給付の対象になるという取扱いを示しています。そのため、保険会社の一括対応が終わったあとも、健康保険に切り替えて通院を続ければ、治療費の全額を自分で払い続ける事態を避けられます。
打ち切り前後の通院費用の扱いは、次のように変わります。
| 時期・方法 | 窓口での支払い | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 打ち切り前(一括対応) | 保険会社が通院先へ直接支払うため、原則として窓口での負担はありません | 保険会社が認めた期間に限られます |
| 打ち切り後(健康保険を利用) | 健康保険の自己負担分を窓口で支払います | 事前に健康保険の窓口へ届出が必要です |
| 打ち切り後(全額を立て替え) | いったん全額を支払い、後日請求の形になります | どこまで認められるかは示談で争いになることがあります |
健康保険を使うときは、通院先の受付で「交通事故によるけがである」ことを必ず伝えてください。伝えないまま通常の受診として扱われると、あとで健康保険側が事故との関係に気づき、手続きが複雑になることがあります。通院先によって健康保険の取り扱い方法が異なる場合があるため、受診前に確認しておくと安心です。
健康保険を使って支払った自己負担分は、後日、加害者側へ請求できます。健康保険が負担した分は、健康保険の運営団体が加害者側へ求める仕組みになっています。示談の内容によっては健康保険が使えなくなることもあるため、示談書にサインする前に、必ず健康保険の窓口へ相談してください。
通勤中や勤務中の事故であれば、健康保険ではなく労災保険が使えます。勤務先に事故の状況を伝え、どちらの手続きになるかを確認してください。
3.4 第三者行為による傷病届の提出方法
交通事故で健康保険を使うには、加入している健康保険の窓口に「第三者行為による傷病届」を提出します。これは、事故が第三者の行為によるものであることを健康保険側に知らせ、給付後の求償に備えるための手続きです。
提出先は、加入している制度によって異なります。
- 会社員の方:全国健康保険協会(協会けんぽ)または勤務先の健康保険組合
- 自営業の方など:お住まいの市区町村の国民健康保険の窓口
- 公務員の方:加入している共済組合
提出書類は、加入先によって名称や様式が少しずつ異なります。一般的には、次のような書類が求められます。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 第三者行為による傷病届 | 事故の日時、場所、相手方の情報、けがの状況などを記入します |
| 事故発生状況報告書 | 事故の状況を図や文章で説明します |
| 交通事故証明書 | 事故が発生した事実を証明する書類で、自動車安全運転センターが発行します |
| 念書・同意書など | 示談の前に健康保険へ相談することや、求償に必要な手続きへの同意を確認する書類です |
手続きの流れは、次の順に進めると迷いにくくなります。
- 加入している健康保険の窓口に電話などで連絡し、交通事故で健康保険を使いたいと伝える
- 必要書類の様式を受け取る、または案内に沿って入手する
- 事故の状況や相手方の情報を記入する
- 交通事故証明書など添付書類をそろえて提出する
- 通院先に、健康保険を使って通院することを伝える
相手方の保険会社の連絡先や事故の状況は、保険会社の担当者に確認すると記入しやすくなります。書類が間に合わない場合でも、まず健康保険の窓口に連絡だけ入れておくと、手続きの順序を案内してもらえます。
3.5 治療費を立て替えた場合の請求の考え方
打ち切り後に治療費を自分で支払った場合、その分を加害者側へ請求できるかどうかは、その治療が事故によるけがの治療として必要かつ妥当だったかという点で判断されます。症状の経過、主治医の所見、通院の頻度や期間が、判断の材料になります。
保険会社が打ち切りを打診した時点では治療が不要と見ていても、実際に症状が続いていて通院に合理的な理由があれば、示談の場面で支払いが認められる余地はあります。一方で、通院の間隔が大きく空いている場合や、症状の変化が記録に残っていない場合は、認められにくくなる可能性があります。
後日の請求に備えて、次のものを保管しておいてください。
| 保管するもの | 保管する理由 |
|---|---|
| 領収書と診療明細書 | 実際に支払った治療費と治療内容を示すため |
| 通院日と症状のメモ | 通院の継続性と、症状の経過を説明するため |
| 通院の交通費の記録 | 電車やバスの区間、自家用車の場合は走行距離などを後から整理するため |
| 主治医の所見がわかる書類 | 治療の必要性を示す裏付けとするため |
請求の方法は、示談の際にまとめて申し出る形が一般的です。打ち切り後の分をどう扱うかは、示談の条件に含まれることがあるため、示談書に署名する前に内容をよく確認してください。
立て替えた分が全額戻るとは限りません。保険会社が一部しか認めないと言ってきた場合は、記録をそろえたうえで、治療が必要だった理由を整理して再度伝えることになります。示談や慰謝料に関する考え方は後の章で触れますので、ここでは支払った費用の記録を、日付順に整理しておくことを意識してください。
4. 痛みが治らないときに検討したい後遺障害の認定
治療を続けても痛みやしびれが残る場合、自賠責保険の後遺障害等級に認定されるかどうかが、その後の賠償の内容を左右します。等級が認定されると、通院期間に応じた慰謝料とは別に、後遺障害に対する慰謝料や、将来の収入減を補う逸失利益を請求する根拠になります。ここでは、認定を検討するうえで押さえておきたい基本的な流れと判断のポイントを整理します。
4.1 症状固定とは何か
症状固定とは、治療を続けても、それ以上の大きな改善が見込めない状態を指します。痛みがまったくなくなった状態を意味するのではなく、「今の治療では変化が乏しくなった」という判断です。後遺障害の申請は、この症状固定を迎えたあとに行います。
保険会社が告げる「治療の打ち切り」と症状固定は、同じものではありません。打ち切りは保険会社による治療費の支払い停止の通告です。症状固定は、本来は症状の経過を踏まえて判断されるものです。打ち切りを告げられた時点でまだ改善傾向があるなら、症状固定とは言い切れない場合もあります。
症状固定の時期はけがの種類や程度で異なります。むち打ちでは受傷から6か月前後が一つの目安とされることが多いものの、一律に決まっているわけではありません。症状固定の時期を早く決めすぎると、本来受けられたはずの治療期間や賠償が短くなるおそれがあります。反対に、改善が見られないのに通院だけを長く続けると、治療の必要性を疑われる場合があります。
| 項目 | 症状固定前 | 症状固定後 |
|---|---|---|
| 治療費 | 必要性と相当性が認められる範囲で賠償の対象になる | 原則として賠償の対象になりにくい |
| 慰謝料の考え方 | 入通院の期間や日数をもとに算定する | 認定された等級をもとに後遺障害の分を算定する |
| 必要な手続き | 通院と症状の記録を残す | 後遺障害診断書の作成と等級認定の申請 |
症状固定後に残った痛みのために通院する場合の費用は、後遺障害が認定されても原則として別扱いになります。時期を決める前に、現在の症状と今後の見通しを確認しておくことが大切です。
4.2 後遺障害診断書を作成してもらう流れ
後遺障害の審査は、基本的に書面で行われます。そのため、後遺障害診断書に症状がどう書かれているかが、認定結果に大きく影響します。作成は、診察を担当した方に依頼します。おおまかな流れは次のとおりです。
- 症状固定の時期について、診察を担当した方と相談する
- 自賠責保険所定の後遺障害診断書の書式を用意する。加害者側の保険会社から取り寄せる方法と、被害者請求の場合に自分で入手する方法がある
- 診察を受け、現在の症状や各種検査の結果を診断書に反映してもらう
- 受け取った診断書の記載内容を自分でも確認する
- 申請の書類一式に添えて提出する
診察では、痛みの部位、強さ、出る頻度、悪化する動作を具体的に伝えます。たとえば「長時間のパソコン作業で首から肩にかけて痛みが強くなる」「天気の悪い日に腕のしびれが増す」など、日常生活や仕事への影響が伝わる形で話すと、記載に反映されやすくなります。
受け取った診断書では、次の点を確認してください。
- 自覚症状の欄に、感じている症状が漏れなく書かれているか
- 神経学的検査や可動域の測定など、他覚的な所見が記載されているか
- 画像検査の所見が書かれているか
- 症状固定日が記入されているか
- 事故前から症状があったかのように読める記載になっていないか
通院の状況も審査で見られます。通院の間隔が大きく空いていたり、通院回数が極端に少なかったりすると、症状の一貫性や重さが疑われる可能性があります。整骨院などの施術だけを受けていて、診察や画像検査を受けていない場合は、診断書を作成できる診察先をあらかじめ確保しておく必要があります。
4.3 後遺障害14級9号と12級13号の違い
むち打ちなど、首や腰の神経症状で認定の対象になりやすいのが、14級9号と12級13号です。どちらも神経症状に関する等級ですが、症状が医学的にどこまで証明できるかが両者を分けます。
| 項目 | 14級9号 | 12級13号 |
|---|---|---|
| 認定基準の表現 | 局部に神経症状を残すもの | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 求められる立証の程度 | 症状が医学的に説明できる程度 | 画像所見や神経学的検査の結果などで、医学的に証明できる程度 |
| 主な判断材料 | 事故の状況、通院の経過、症状の一貫性、神経学的検査の結果 | 画像上の異常と、しびれや感覚の異常、筋力低下などの神経症状が一致していること |
| 想定される例 | 画像に明らかな異常がないむち打ちで、痛みやしびれが続いている | 画像で神経の圧迫が確認でき、その部位に対応した症状が出ている |
| 労働能力喪失率の目安 | 5パーセント | 14パーセント |
むち打ちで認定される場合は、14級9号が多い傾向にあります。12級13号は、画像で確認できる所見と神経症状が結びつく場合に検討される等級です。ただし、画像に異常があっても、それが事故以前からの加齢による変化と判断されれば、事故との結びつきが認められないこともあります。
労働能力喪失率は、自賠責保険で用いられる等級ごとの基準です。実際の示談では、仕事の内容や症状の程度を踏まえて話し合いになるため、基準どおりに決まるとは限りません。
4.4 後遺障害等級認定の申請方法と事前認定・被害者請求の違い
後遺障害の等級認定の申請には、事前認定と被害者請求の2つの方法があります。審査そのものは、どちらの方法でも損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が行います。違いは、誰が申請し、どの資料を提出するかを誰が決めるかという点です。
| 項目 | 事前認定 | 被害者請求 |
|---|---|---|
| 手続きをする人 | 加害者側の任意保険会社 | 被害者本人、または代理人 |
| 申請先 | 任意保険会社を通じて審査機関へ | 加害者が加入する自賠責保険会社 |
| 被害者の手間 | 後遺障害診断書などを保険会社に渡すだけで済む | 必要書類を自分で集めて提出する |
| 提出資料の確認 | 保険会社が提出する資料の中身を把握しにくい | 提出する資料を自分で選び、内容を確認できる |
| 追加資料の添付 | 保険会社を通すため、添付の調整が必要 | 検査結果や意見書などを自分で添付できる |
| 認定後の保険金 | 示談が成立してから、賠償金として受け取る流れが一般的 | 認定された等級に応じた自賠責保険金を、示談前に受け取れる |
被害者請求では、一般に次のような書類をそろえます。
- 保険金の支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書と診療報酬明細書
- 後遺障害診断書
- 画像検査の資料
- 印鑑証明書
審査にかかる期間は、数週間から数か月と幅があります。症状が複雑な場合や、追加で資料の提出を求められた場合は、さらに長くなることがあります。
手続きには期限があります。自賠責保険への請求は、後遺障害の場合、症状固定日の翌日から3年で時効にかかるとされています。症状固定の日付は診断書にも記載されるため、早めに申請の準備を始めておくと安心です。
4.5 認定に通らなかったときの異議申立て
審査の結果、「非該当」とされたり、想定していたより低い等級だったりした場合でも、結果に納得できなければ異議申立てで再審査を求められます。まず、結果通知書にその判断の理由が記されているため、どの点が認められなかったのかを読み取ります。
非該当の理由として、たとえば次のような指摘が挙げられます。
- 症状を裏づける画像上の所見や、神経学的検査の結果が乏しい
- 通院の頻度が少なく、症状の一貫性が確認できない
- 事故の規模や車両の損傷が軽く、症状との結びつきが弱いとみられた
- 症状が、事故以前から存在した変化によるものと判断された
異議申立ての回数に制限はありません。ただ、前回と同じ資料を出し直すだけでは、結果が変わる可能性は低くなります。指摘された点を補う資料、たとえば追加の検査結果、症状の経過を説明する意見書、通院の経過をまとめた書面などを添えることが重要です。
異議申立てのほかに、一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理を申請する方法があります。この機構による審査は書面で行われ、同じ事案について申請できるのは1回に限られます。それでも納得できない場合には、裁判で等級や賠償額を争う方法もあります。
再審査の間も時効は進みます。申立ての準備に時間がかかると期限が近づくことがあるため、結果通知を受けたら早めに対応を検討してください。
5. 治療打ち切り後の慰謝料と示談で注意すべきこと
保険会社から治療の打ち切りを伝えられると、続いて示談の話が持ち出されることが少なくありません。示談は、一度成立すると原則としてやり直しができません。ここでは、慰謝料の種類と考え方、示談を急ぐことで起こりやすい不利益、過失割合が賠償額に及ぼす影響を整理します。
5.1 入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の違い
交通事故の慰謝料には、大きく分けて2種類あります。入通院慰謝料はけがの治療期間に対して支払われるもので、後遺障害慰謝料は後遺障害の等級が認定されたときに加わるものです。治療が終わっても痛みが残っている場合は、この2つを分けて考える必要があります。
| 項目 | 入通院慰謝料 | 後遺障害慰謝料 |
|---|---|---|
| 対象となるもの | 事故によるけがで通院や入院をした精神的苦痛 | 治療を続けても残った症状による精神的苦痛 |
| 算定の基になるもの | 通院期間、入院期間、通院の頻度 | 認定された後遺障害の等級 |
| 請求できる条件 | 事故との因果関係が認められる治療を受けたこと | 症状固定後に後遺障害等級の認定を受けたこと |
| あわせて検討する項目 | 治療費、通院交通費、休業損害 | 後遺障害による逸失利益 |
後遺障害慰謝料とは別に、後遺障害が残ったことで将来の収入が減ると見込まれる分は、逸失利益として別に請求する項目になります。逸失利益は、事故前の収入、等級ごとに定められた労働能力喪失率、労働に影響が及ぶと見込まれる期間などを基に計算されます。たとえば労働能力喪失率の目安は、14級で5%、12級で14%とされています。等級の認定そのものについては、前の章で説明した流れに沿って進めます。
5.1.1 算定基準によって慰謝料の考え方が異なる
慰謝料の計算には、自賠責保険の基準、任意保険会社が独自に用いる基準、弁護士が交渉や裁判で用いる基準の3つがあるとされています。同じ通院期間でも、どの基準で計算するかによって金額が変わります。
| 算定基準 | 特徴 |
|---|---|
| 自賠責基準 | 被害者への最低限の補償を目的とした基準です。通院の対象日数は、治療期間の総日数と、実際に通院した日数の2倍とを比べて、少ないほうが採用されます。 |
| 任意保険基準 | 各保険会社が内部で定めている基準で、公表されていません。自賠責基準に近い水準で提示されることがあるといわれています。 |
| 弁護士基準 | 過去の裁判例を基にした基準です。通院期間などから算定表を使って計算します。 |
保険会社が最初に示す金額は、任意保険基準で計算されている場合があります。提示された書面に、どの基準で計算したのかが書かれているかを確認すると、金額の位置づけがわかりやすくなります。
5.1.2 打ち切りによる通院期間の短縮は慰謝料にも影響する
入通院慰謝料は通院期間や通院日数を基に計算されるため、治療の打ち切りで通院をやめてしまうと、痛みが残っていても算定の対象となる期間が短くなる可能性があります。打ち切り後も通院を続けた場合、その期間が慰謝料の対象に含まれるかどうかは、治療の必要性や事故との関連が認められるかによって判断が分かれます。通院を続けるなら、症状の経過や通院の理由を記録に残しておくと、後の協議で説明しやすくなります。
5.2 示談を急ぐと損をする理由
保険会社は、治療費の支払いを終えた時期に示談案を送ってくることがあります。示談書に署名して成立すると、示談書に記載された内容以外の請求は、原則として認められなくなります。示談書に「今後一切の請求をしない」といった清算条項が入っていると、示談後に症状が悪化しても追加の請求が難しくなるため、署名の前に内容をよく確認することが大切です。
5.2.1 後遺障害の認定前に示談を結ぶと請求できなくなるおそれがある
痛みが続いているのに、症状固定や後遺障害等級の認定を待たずに示談をすると、後遺障害慰謝料や逸失利益が含まれないまま示談が終わることがあります。示談の成立後に後遺障害が見つかった場合に、例外的に追加の請求が認められる余地はあるとされていますが、争いになりやすく、容易ではありません。痛みが残る場合は、症状固定の時期と後遺障害の認定結果が出てから、示談の内容を検討するほうが安全です。
5.2.2 示談書に署名する前に確認したい項目
提示された示談案には、請求できる項目が抜けていることがあります。次の表を参考に、内容を一つずつ照らし合わせてみてください。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 治療関係費 | 打ち切り後に自分で支払った通院費用が含まれているか、含まれない場合は理由が示されているか |
| 通院交通費 | 電車やバス、自家用車での通院分が計上されているか |
| 休業損害 | 仕事を休んだ日数や、減った収入が反映されているか。家事を担う方の家事労働分も対象になる場合があります。 |
| 慰謝料 | どの算定基準で、どの通院期間を基に計算されているか |
| 後遺障害に関する項目 | 後遺障害の認定結果が反映されているか、認定を受ける前の提案になっていないか |
| 過失割合 | 事故の状況と食い違っていないか |
5.2.3 請求には時効があるため放置もしない
示談を急ぐ必要はありませんが、何もせず放置してよいわけでもありません。人の身体への損害賠償請求は、原則として損害と加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています。後遺障害がある場合は、症状固定の日が時効の起算点として扱われます。一方、自賠責保険への請求には3年の期限が設けられています。期限が近づいているときは、示談に応じるか、時効を止める手続きをとるかを検討する必要があります。
5.3 過失割合が治療費や慰謝料に与える影響
過失割合とは、事故が起きた原因について、当事者それぞれにどの程度の責任があるかを割合で表したものです。被害者にも過失があるとされると、その割合の分だけ賠償額が差し引かれます。これを過失相殺といいます。過失相殺は慰謝料だけでなく、治療費や休業損害など、損害全体に対して行われるため、割合が1割違うだけでも最終的に受け取る額が変わります。
| 被害者の過失割合 | 損害の総額を100とした場合の請求できる割合 |
|---|---|
| 0割 | 100 |
| 1割 | 90 |
| 2割 | 80 |
| 3割 | 70 |
治療費についても、保険会社が病院などへ直接支払っている間は、被害者の負担を意識することが少ないかもしれません。ただし、被害者に過失がある場合、示談の際に、支払い済みの治療費のうち被害者の過失に相当する分が賠償額から差し引かれることがあるため、受け取る金額が想定より少なくなる場合があります。
5.3.1 自賠責保険では被害者の過失が大きい場合のみ減額される
自賠責保険には、被害者の過失が小さいときには減額しない仕組みがあります。傷害部分については、被害者の過失が7割未満であれば減額されず、7割以上になると2割が減額される扱いとされています。任意保険会社との示談では、この仕組みとは別に過失相殺が行われるため、自賠責での扱いと示談での扱いを混同しないよう注意が必要です。
5.3.2 過失割合は保険会社の提示がそのまま確定するものではない
過失割合は、警察が決めるものではありません。当事者や保険会社が、事故の状況や過去の裁判例を参考にして話し合い、合意によって決まります。保険会社の提示に納得できない場合は、次のような資料を集めて、事故状況を具体的に説明できるようにしておくと、話し合いを進めやすくなります。
- 事故直後に作成される実況見分調書などの警察の記録
- 事故現場や車両の損傷を撮影した記録
- 事故当時の状況を確認できる、車載の記録装置のデータ
- 目撃者がいる場合は、その連絡先と証言の内容
人身事故として届け出ていない場合は、警察の記録上は物件事故として扱われ、実況見分調書が作成されないことがあります。痛みが続いているなら、早めに人身事故への切り替えを検討してください。
5.3.3 被害者の過失が大きい場合に確認したいこと
被害者側の過失が大きいと、賠償額から差し引かれる分が増え、受け取れる金額が少なくなります。ご自身が加入している保険に人身傷害保険などが付いている場合は、契約内容によっては過失の有無にかかわらず、補償を受けられる可能性があります。加入している保険の補償内容を確認し、使えるものがないか早めに保険会社へ問い合わせておくと、示談の際の選択肢が広がります。
6. 治らない痛みを少しでも早く改善するための通院先の選び方
事故後の痛みが長引くときは、通院先を「検査と診断を受ける場所」と「施術やケアを受ける場所」に分けて考えると整理しやすくなります。それぞれの役割が異なるため、どちらか一方だけに頼るのではなく、目的に合わせて使い分けることが、痛みの経過を正確に把握することにつながります。
| 通院先 | 主な役割 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 整形外科 | 画像検査や神経の検査、診断、診断書の作成 | 事故直後、痛みやしびれが強いとき、症状の原因を確認したいとき |
| 整骨院・接骨院 | 筋肉や関節の状態の確認、手技による施術、日常動作のアドバイス | 検査で大きな異常がないまま、肩や首、腰のつらさが続いているとき |
6.1 整形外科で検査と診断を受けるメリット
整形外科で受けられる最も大きなメリットは、痛みの原因に骨折や神経の損傷といった見逃してはいけない状態が含まれていないかを、検査で確認できることです。レントゲン検査では骨折や脱臼、骨のずれを確認できます。また、腱反射や筋力、皮膚の感覚を調べる神経学的な検査により、しびれや力の入りにくさの有無も確かめられます。
もうひとつのメリットは、事故後の症状の経過が診察の記録として残ることです。事故から受診までの期間が空くと、痛みと事故との関係を説明しにくくなる場合があります。痛みが軽くても、事故後はできるだけ早い時期に一度受診しておくと安心です。
診察の場では、痛む場所だけでなく、どの動作で痛むのか、いつ強くなるのかまで具体的に伝えることが大切です。診察時間は限られているため、事前にメモを用意しておくと伝え漏れを防げます。
| 伝える内容 | 具体例 |
|---|---|
| 痛みの場所と種類 | 首の右側がズキズキする、腰の奥が重だるいなど |
| 痛みが出る動作 | 振り向くとき、座ったまま長時間作業をしたとき、朝起き上がるときなど |
| 痛み以外の症状 | 手のしびれ、頭痛、めまい、吐き気、眠りにくさなど |
| 生活や仕事への影響 | 車の運転で後方確認がつらい、荷物を持ち上げられないなど |
| 前回の診察からの変化 | 痛みが軽くなった、変わらない、むしろ強くなったなど |
痛み以外の症状も、事故と関係している場合があります。関係がないと思えるものでも、気になることは遠慮せずに伝えてください。
6.2 整骨院や接骨院に通うときの注意点
整骨院や接骨院では、筋肉の緊張や関節の動きの硬さを確認しながら、手技による施術や日常生活でのアドバイスを受けられます。画像検査で大きな異常がないのに肩や首、腰のつらさが続くときに、通院先の選択肢のひとつになります。一方で、通い方によっては、保険会社との間で行き違いが起きることもあります。次の点に気をつけてください。
| 注意点 | 理由 | 具体的な対応 |
|---|---|---|
| 通う前に保険会社へ連絡する | 連絡のないまま通院すると、施術の必要性について保険会社と意見が分かれることがあるため | 通院先の名称と通院を始める旨を、担当者に伝えておく |
| 病院への通院も続ける | 施術は検査や診断の代わりにはならず、診断書も病院で作成されるため | 症状が続くあいだは、定期的に病院で診察を受け、経過を伝える |
| 通院の間隔を空けすぎない | 間隔が空くと、痛みが軽くなったと受け取られる可能性があるため | 無理のない頻度を施術者と相談し、予定どおりに通う |
| 症状を毎回同じように伝える | 通院先ごとに症状の説明が異なると、記録に食い違いが生じるため | 痛みの場所や程度を、病院でも施術の場でも同じ言葉で伝える |
| 自己判断で通院先を変えない | 通院先を変えるたびに経過が分断され、症状の把握が難しくなるため | 変更したいときは、先に保険会社と現在の通院先へ相談する |
とくに病院での診察と整骨院での施術を並行して受けると、検査による確認と日々の状態に合わせたケアの両方を得られます。整骨院に通うからといって病院に行かなくてよいわけではありません。月に一度でも診察を受けて経過を確認しておくと、症状の変化を客観的に追いやすくなります。
施術を受けるときは、痛みの感じ方が施術の前後でどう変わったか、日常動作で何ができるようになったかを、毎回伝えるようにしましょう。症状の変化を共有することで、施術の内容を調整しやすくなります。
6.3 MRIなど精密検査を受けるべきケース
レントゲン検査では、骨以外の組織である椎間板や神経、靭帯、筋肉の状態までは確認しにくいことがあります。痛みが続いている場合は、担当の先生と相談のうえ、より詳しい画像検査を受けるかどうかを検討します。検査を受けるかどうかは診察結果をもとに判断されるため、自己判断で決めるのではなく、まず症状を伝えて相談することが基本です。
次のような状態があるときは、精密検査の必要性について、早めに担当の先生へ相談してください。
| 状態 | 相談したい理由 |
|---|---|
| 腕や手、脚や足にしびれが出ている | 首や腰の神経が圧迫されている可能性を確認するため |
| 力が入りにくい、物を落としやすい | 神経の働きに影響が出ていないかを調べるため |
| レントゲンで異常なしと言われたが、痛みが続いている | 骨以外の組織に原因がないかを確認するため |
| 数週間たっても痛みがほとんど変わらない | 回復が思わしくない原因を探るため |
| 痛みの範囲が広がった、以前より強くなった | 症状が変化した理由を確認するため |
なお、検査で異常が見つからなかったからといって、痛みがないことになるわけではありません。画像に写らない筋肉や靭帯の損傷が痛みの原因になっていることもあります。検査結果の見方と今後の通院の進め方は、担当の先生に確認しておくと安心です。
一方、激しい頭痛や繰り返す嘔吐、手足の麻痺、排尿や排便のコントロールが難しいといった症状が出たときは、次の通院日を待たずにすぐに受診してください。事故から日数がたっていても、こうした症状は早急な対応が必要になる場合があります。
7. 交通事故で治らない痛みに悩んだら弁護士への相談も検討しよう
治療の打ち切りを打診されたとき、後遺障害の申請を考えるとき、示談の案内が届いたときは、弁護士に相談を検討する場面です。痛みが残っているのに保険会社の提案をそのまま受け入れると、あとから条件を見直すのが難しくなるためです。ここでは、弁護士に相談して得られること、費用面で確認したい特約、相談前に用意しておきたい資料を整理します。
7.1 弁護士に相談するメリット
交通事故の相談では、保険会社とのやりとりや損害賠償の請求を弁護士が担います。通院を続けながら、慣れない交渉や書類対応まで自分で進める負担を減らせる点が大きな違いです。相談で期待できる主な内容は次のとおりです。
| 相談で期待できること | 具体的な内容 |
|---|---|
| 保険会社との交渉の代理 | 治療期間の延長や打ち切り後の対応について、本人に代わって保険会社へ連絡や交渉をします。電話での催促や説明に自分で応じる回数を減らせます。 |
| 後遺障害の申請に向けた助言 | 後遺障害診断書に必要な記載や、提出する資料の整理について助言を受けられます。認定されなかった場合の異議申立ての進め方も相談できます。 |
| 慰謝料などの算定基準の見直し | 保険会社が提示する金額は、自賠責保険の基準や保険会社独自の基準で計算されている場合があります。弁護士は過去の裁判例をもとにした基準(弁護士基準)で請求できるため、提示額と差が出ることがあります。ただし、実際の金額は症状や通院状況などで変わります。 |
| 過失割合の確認 | 事故状況の資料をもとに、提示された過失割合が妥当かを検討できます。過失割合が変わると受け取れる賠償額も変わります。 |
| 休業損害や将来の損害の整理 | 仕事を休んだ分の補償や、痛みが残ることで仕事や家事に生じる影響を、請求の対象として整理できます。 |
相談のタイミングは早いほうが選択肢を残せます。目安は、保険会社から治療打ち切りの連絡があったとき、症状固定の時期を考え始めたとき、示談書を受け取ったときです。示談が成立したあとに追加で請求することは、原則として難しくなります。損害賠償の請求には期限もあり、人身事故では一般に事故の翌日から5年(後遺障害は症状固定の翌日から5年)とされています。ただし事案によって異なる場合があるため、期限が気になる場合は早めに確認してください。
注意したいのは、弁護士は法的な手続きと交渉の専門家であり、痛みの状態や治療が必要かどうかを判断する立場ではないことです。通院の頻度や施術の内容は、これまでどおり通院先で相談します。そのうえで、痛みの経過や通院の記録を残しておくと、弁護士が主張を組み立てるときの材料になります。
7.2 弁護士費用特約が使えるか確認しよう
弁護士への依頼をためらう理由として多いのが費用面の不安です。この不安を軽くする手段が弁護士費用特約です。自動車保険や火災保険、傷害保険などに付帯していることがあり、事故の相談や依頼にかかる弁護士費用を、契約で定めた範囲内で保険会社が負担する仕組みです。補償の上限や対象になる範囲は契約ごとに異なるため、保険証券や約款で確認が必要です。
確認の際は、自分が契約している保険だけでなく、家族の保険もあわせて見ます。同居の親族や、別居の未婚の子が契約している保険の特約が使える場合があります。事故のときに乗っていた車の保険や、勤務先で加入している保険に付いているケースもあります。
| 確認する項目 | 見ておきたいポイント |
|---|---|
| 特約の有無 | 自分の自動車保険、火災保険、傷害保険のほか、家族の保険にも付帯していないかを確認します。 |
| 対象となる人 | 本人のほか、同居の親族や、事故時に乗っていた車の同乗者が対象になるかを確認します。 |
| 補償の範囲と上限 | 相談だけの場合と、示談交渉や裁判まで依頼した場合で、補償の範囲が異なることがあります。 |
| 利用後の保険契約への影響 | 弁護士費用特約のみを使った場合は、一般に翌年度以降の等級に影響しないとされています。契約先に確認すると安心です。 |
| 弁護士の選び方 | 保険会社から弁護士を紹介されることもありますが、被害者が自分で弁護士を選べる仕組みが一般的です。契約内容とあわせて確認します。 |
自分に過失がない事故では、自分が加入する保険会社が相手方との示談交渉を代行できないとされています。このため、過失のないもらい事故ほど、本人が相手方の保険会社と直接やりとりする負担が大きくなりやすく、弁護士費用特約が役立つ場面が多いと考えられます。一方で、特約が付いていない場合でも、相談の条件や費用の仕組みは事務所ごとに異なります。依頼前に説明を受けて納得したうえで判断してください。
7.3 無料相談を利用するときに準備しておきたいもの
初回の相談は時間が限られていることが多く、事故の経緯と現在の状況が整理されていないと、助言が一般的な内容にとどまりやすくなります。相談料の扱いや時間は事務所ごとに異なるため、予約時に確認しておくと安心です。次の資料をそろえて持参すると、状況が伝わりやすくなります。
| 準備するもの | 相談で役立つ理由 |
|---|---|
| 交通事故証明書、事故状況がわかる資料 | 事故の日時や状況を確認でき、過失割合の検討にもつながります。 |
| 診断書、通院先の領収書や通院日の記録 | 診断内容と通院の頻度を確認でき、治療期間の見通しや慰謝料の検討に使えます。 |
| 保険会社から届いた書面と、やりとりのメモ | 治療打ち切りの連絡や示談案の内容、連絡を受けた日時が分かり、交渉の経緯を把握できます。 |
| 保険証券(自動車保険、火災保険など) | 弁護士費用特約の有無や補償の範囲を、その場で確認できます。 |
| 給与明細や源泉徴収票など収入が分かる書類 | 仕事を休んだ場合の休業損害を検討する材料になります。主婦や自営業の方は、家事や仕事への影響を書いたメモがあると役立ちます。 |
| 痛みの経過を書いたメモ | いつから、どの動作で、どの程度つらいかを伝えられます。日常生活や仕事で困っていることも書いておくと、状況が具体的に伝わります。 |
資料がすべてそろっていなくても、相談できる場合があります。手元にあるものだけを持参し、足りない資料は相談時に何を集めればよいか確認する進め方でも問題ありません。
あわせて、聞きたいことを事前に書き出しておくと、相談時間を有効に使えます。たとえば次のような内容です。
- 治療の打ち切りを打診されているが、今の通院状況で延長を求められるか
- 後遺障害の申請を考えるとき、どの時期に何を準備すればよいか
- 提示された示談案の内容に、見直せる点があるか
- 依頼した場合に、保険会社とのやりとりはどこまで任せられるか
- 特約を使える場合と使えない場合で、手続きや負担がどう変わるか
相談したからといって、その場で依頼を決める必要はありません。複数の事務所で説明を聞き、対応の分かりやすさや連絡の取りやすさも含めて比べることもできます。
8. まとめ
交通事故の痛みは、むち打ちなど画像に写りにくい症状では長引くことがあります。治療の打ち切りは保険会社の判断で、医師の判断とは異なります。痛みが続くときは、主治医に治療の必要性を確認し、保険会社へ期間の延長を相談します。難しい場合は、傷病届を提出して健康保険で通院する方法もあります。症状固定後も痛みが残るときは、後遺障害診断書をもとに等級認定を申請でき、非該当でも異議申立てが可能です。示談は急がず、弁護士費用特約の有無も確認しながら進めましょう。何かお困りごとがありましたら当院へお問い合わせください。

